研究課題/領域番号 |
25300040
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
大沼 克彦 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 共同研究員 (70152204)
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研究分担者 |
久米 正吾 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイト・フェロー (30550777)
岡田 保良 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 教授 (90115808)
濱田 英作 国士舘大学, 21世紀アジア学部, 教授 (50254727)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遊牧社会の形成 / 中央アジアと西アジア / 比較考古学 / 遺跡の分布調査と発掘調査 / キルギス共和国 / ①キルギス共和国、遺跡の分布調査と発掘調査 / ①キルギス共和国、データベース / ①キルギス共和国、考古学 |
研究実績の概要 |
1. キルギス現地調査:(1)チュイ州クラマ遺跡の発掘調査に参加した(大沼:6月6日~7月10日)。この発掘で後期旧石器層から出土した炭化物のC14測定値(22900 B.P. (1層)、26000~29000 B.P.(2層)、30000 B.P.(3層))は、「遊牧社会形成」前史の研究として、後期旧石器人(ホモ・サピエンス)が中央アジアに出現した経緯を知るうえで重要である。(2)ナリン州アイグルジャル遺跡の発掘調査に参加した(久米:7月4日~26日)。13065~13475 B.P. (中石器層)、1576~3695 B.P.(青銅器時代層)の炭化物C14測定値は、両層のあいだに約1万年の空白を示しており、昨年度の実績報告書で提起した「天山山脈北麓の遊牧社会形成が同地での発展ではなく、他地域からの集団流入によった」とする考察をより妥当にする。 2. 国内研究:(1)出土炭化物17点のC14年代測定。(2)キルギス考古学最新情報を提供するための研究者招聘:3月19日から24日にかけ、研究協力者であるTemirlan Chargynov、Aida Abdykanova両氏を招聘し、第22回西アジア発掘調査報告会(21日:古代オリエント博物館)で上記2つの発掘調査の成果を、久米/Abdykanova、大沼/Chargynovにより共同報告した。また、本研究プロジェクトと東京大学考古学研究室が共催した公開講演会「キルギスの先史時代」(22日:東京大学)で、Chargynovが「Palaeolithic Sites in Kyrgyzstan and the Current State of their Research」、Abdykanova が「The Mesiolithic and Neolithic of Kyrgyzstan」という演題で講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では、「中央アジア遊牧社会の形成・発展の経緯の解明」を本研究の目的とした。そして、この目的に到達するため、1)キルギスの先史時代から歴史時代の遺跡の分布調査と発掘調査を推進し、2)中央アジア遊牧社会形成に関する「西方からの遊牧民移住」、「在地農牧民の専従遊牧民化」という2つの仮説それぞれの妥当性を検証し、そのうえで、3)遊牧社会発展の地理的および文化的な多様性を解明するという3つの研究活動を計画した。 25年度と26年度のキルギス現地調査ではナリン州での遺跡の分布調査をおこない、アイグルジャル No. 2 遺跡では発掘調査に参加した。そして、この発掘ではC14測定で12000~13500 B.P. に年代づけられた中石器時代と3500~3900 B.P. に年代づけられた後期青銅器時代の層を明らかにし、周辺の複数遺跡に関してもまた、採取した炭化資料のC14年代測定により同様な値を得た。遊牧社会形成前史の研究としては、チュイ州の旧石器遺跡・クラマにおいてキルギスで最初となるC14年代値を得た。 以上のうち、アイグルジャル No. 2 遺跡では新石器時代層はみられず、得られたC14年代値は、中石器時代と後期青銅器時代のあいだに約1万年の空白があることを示している。新石器時代に遊牧社会の萌芽がみられ、青銅器時代には確立していた西アジア地方を考慮するなら、少なくともナリン州を含む天山山脈北麓では、遊牧社会の形成が「同地における中石器時代、新石器時代、青銅器時代を通過した連続発展ではなく、青銅器時代になってからの他地域からの集団流入(上記2つの仮説の前者)」に起因したものであった可能性が極めて高い。 このように、本研究は中央アジアにおける遊牧社会形成の経緯を解明しつつあり、研究目的の達成に向けて順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
上述した「現在までの達成度」をふまえ、今年度以降は「天山山脈北麓の遊牧社会形成」の経緯に関してこれまでに得た新知見の妥当性をより確実にするという観点で遺跡分布調査と発掘調査を推進する。そのうえで、中央アジアにおける「遊牧社会発展の地理的および文化的な多様性」を解明していきたい。 具体的には、本年度の7月に大沼がチュイ州クラマ遺跡の発掘調査に継続参加し、中央アジアで現代人の直接の祖先ホモ・サピエンスが出現した経緯の解明に尽力する。本年度はまた、青銅器時代における遊牧社会形成の経緯をより一層明確にするため、久米が7月下旬から8月上旬にかけてアイグルジャル遺跡の継続発掘に参加し、それと同時に、発掘対象遺跡の範囲を拡大して、イシククル州ウチュ・クルブ遺跡の発掘調査に参加する。これらの発掘調査に合流して、過去の地理・環境情報を知るために地理情報学を専門とする研究協力者1名が参加する。来年度(本研究プロジェクトの最終年度)は、それまでの3年間に蓄積した研究成果をふまえ、本研究の目的を達成するための総括的研究と補足的研究をキルギス現地と本邦で実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月19日から24日にかけて招聘したキルギス人研究協力者2名に関する宿泊費などの諸経費が当初の予定を下回ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
キルギスで発掘をおこなう遺跡の数、および、発掘で出土する炭化物の数量の増加が見込まれます。それ故、炭化物のC14年代測定の件数の増加も見込まれます。したがって、増加が見込まれるC14年代測定経費に使用します。
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