研究課題
アジア経済回廊諸国(ミャンマー・タイ・ベトナム・インド)を対象とする本調査では、特に新興都市として急速に経済発展しているミャンマーのヤンゴンおよびベトナムのダナンを継続的に検証し、インフラ工事の拡大や都市移動による都市の拡大が、むしろパンデミックな感染症に伴う病院等の医療施設の不足などにより、社会不安が増加していることを確認した。2年目の調査としては、道路などのインフラ整備の進行とともに展開する、近隣地域のネットワーク化に注目し、こうした社会変化がこうした新興都市の医療の在り方をより複雑なものにしている可能性を検証した。また新興都市ヤンゴンやダナンでも、メガシティとしてのタイのバンコクやインドのコルカタと同様に、デング熱の流行があるが、HIV/エイズや鳥インフルエンザなどの感染症も発生しており、それぞれの感染症は重層的な形で地域住民に大きな影響を与えていることを確認した。中国と国境を接するベトナムでは、交通ルートとしての回廊システムが発展しており、食文化を共有することで、鳥インフルエンザの流行はダナン地域にまで及んでいた。HIV/エイズについても、回廊システムの発展により、流行の危険も増加しているが、政府指導による積極的な対策は不十分であり、今後の課題として認識された。本研究の目的は、感染症への社会不安に向けての本格的なアプローチの確立を目指しており、政治や宗教活動などに反映される社会不安を探求してきた。しかし、2年目の調査では、対象地域の新興都市およびメガシティ共に、自然災害に対する脆弱性も明確に確認され、人々の自然観・宗教観における災害と感染症の位置づけの必要性を認識した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、海外フィールド調査を中心に行うものであり、平成26年度に予定された海外調査をすべて実施し得たので、順調に進展していると言える。成田弘成(研究代表者)は、予定通り、アジア回廊新興都市を中心に、ミャンマーに計5週間、ベトナムに計4週間、そしてタイに2週間、インドに2週間、計3ヶ月の調査を行った。江下優樹(研究分担者)は、メガシティのタイ・バンコク市において、2週間の調査を行った。特に、フィールドワークでは、デング熱に加えて、鳥インフルエンザ等の感染症への社会不安に関する調査を多面的角度から模索した結果、まだ発展段階の新興都市ではむしろ伝統的な慣習が社会システムとして維持され、感染症のリスクを高めていることを確認した。成田弘成(研究代表者)が担当する社会不安に関する研究は、東西回廊地域の道路を中心とするインフラ事業の展開と密接に関連しているので、2年目の研究としては、東西回廊の発着・終着地点のベトナム・ダナン市とミャンマー・ヤンゴン市に組み込まれつつある中継拠点都市まで調査を拡大し、感染症の発生が人の移動や物流に影響されていることを確認した。一方、江下優樹(研究分担者)は、継続してタイでデング熱の疫学調査を実施し、デングウイルス媒介蚊の採集の他、最近のデング熱流行に対する対策を模索した。本研究は、タイのマヒドン大学医学部との協力関係で実施しており、海外共同研究者の同大学コマラミスラ教授らと、デング熱対策については合同協議を実施した。しかし研究発表としてはまだ準備段階にあり、平成27年度の課題とした。
本研究は、パンデミック感染症として、HIV/エイズ、デング熱、鳥インフルエンザなど多様な感染症を対象としているが、これらは異なる感染経路を持つゆえに、地域には重層的に存在していると考えるべきである。同時に、アジア回廊地域の多様性を考慮すれば、地域的な戦略を持って、これらの感染症対策を考察する必要性も認識される。したがって、研究当初から、メガシティのタイ・バンコクやインド・コルカタにおいては、デング熱調査を中心に据え、その他の新興都市においては感染症の流行状況に対応する柔軟な姿勢を取った。実際、経済的後進国のミャンマー・ヤンゴンやベトナム・ダナンでは、むしろHIV/エイズや鳥インフルエンザ対策の遅れがより問題視される必要があった。平成27年度も、基本的にはデング熱を中心にその対策を検討するが、感染症の焦点をより拡大し、HIV/エイズや鳥インフルエンザなど、地域的な特性を考慮したものに発展させ、社会環境との関連性についてもより明確化する予定である。調査対象地域の面からいえば、平成27年度以降も、タイをベースにした東西回廊の発展の流れに沿いながら、ミャンマー・ベトナム・インドの各回廊都市のコミュニティを本格的に調査する予定である。東西回廊地域の発展が、社会環境に与える変化を確認しながら、重層的に存在するパンデミックな感染症が、回廊地域住民の「不安の連鎖」を造り出す実態を解明してゆく。平成27年度は、タイのマヒドン大学医学部とのワークショップ(研究会合)を日本において開催し、日本の専門家との協力関係の上で、議論を重ね、研究発表をしてゆく予定である。
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