研究課題/領域番号 |
25301012
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
多賀 秀敏 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (30143746)
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研究分担者 |
佐藤 幸男 富山大学, 人間発達科学部, 教授 (00162496)
佐渡友 哲 日本大学, 法学部, 教授 (80178798)
高橋 和 山形大学, 人文学部, 教授 (50238094)
若月 章 新潟県立大学, 国際地域学部, 教授 (20290059)
大津 浩 成城大学, 法学部, 教授 (10194200)
柑本 英雄 弘前大学, 人文学部, 教授 (00308230)
吉川 健治 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (30512727)
臼井 陽一郎 新潟国際情報大学, 情報文化学部, 教授 (90267451)
宮島 美花 香川大学, 経済学部, 准教授 (70329051)
五十嵐 誠一 千葉大学, 法経学部, 講師 (60350451)
福田 忠弘 鹿児島県立短期大学, その他部局等, 准教授 (50386562)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東アジア / サブリージョン / ガバナンス / 拡大メコン圏 / GMS / 国際情報交換(タイ) |
研究概要 |
本年度調査は、ミャンマー・雲南を中心にサブリージョン各行為体の地域認識の情報を収集した。ヤンゴンでは、日系研究機関事務所、日系物流企業2社、昆明では、大学のGMS研究センター、日系企業の雲南進出支援企業と少数民族地域で活動するNGOなど、ステークホルダーへの聞き取り、西双版納・タイ族自治州では、中国―ミャンマー国境(打洛)、ラオス国境(Mohan、磨丁)の境界周辺を前回に継続して定点的に調査した。その結果、各行為体がGMSの制度化分野を積極的に利用する一方、未制度ではあるが必要とされる分野・機能に関し、他行為体に要求する機会を必要とする「越境地域協力がステークホルダーに与える影響」が明らかになった。これはGMSにスケールを跨ぐ熟議の場が制度化されていないことを意味する。サブリージョンの社会的な認知度や影響に関しては、現地カウンターパートとの意見交換の結果、現時点でGMSは象徴的かつ暫定的なメカニズムであるものの、地理的に隣接するメカニズムとの融合の可能性を有するとの知見を得た。 10月の日本国際政治学会(新潟)では、分科会「サブリージョナリズムの国際政治学」を組織し、臼井陽一郎の司会で、国際政治理論からの整理(五十嵐誠一)、ASEAN・中国境界領域(佐渡友哲)、EU・ロシア境界領域(高橋和)の各報告をもとにフロアとの議論を行った。また、2月には、メンバーの佐藤幸男、森川裕二らを中心に、「韓日知識人ネットワーク会議」を立ち上げ、日韓の恒常的研究活動拠点とすることができた。さらに、博士論文「東北アジア・サブリージョンにおける内発的越境ガバナンス:『北東アジア地域自治体連合(NEAR)』の事例研究」や、修士論文「東北アジアにおけるトラスナショナルなネットワークと地方自治体―「日ロ沿岸市長会議」の事例に注目して―」の若手の学位論文が提出されるなど研究の裾野も広がってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の1つに、サブリージョンの機能に着目し、制度化された機能だけでなく公式に制度化されない機能について検討を行うことを挙げている。サブリージョンにおける地域協力のプロセスで涵養される市民性や普遍的価値は、地域を実際につなぐ人々のエンパワーメントという点で重要なファクターとなる。ミャンマー・雲南の調査では、このエンパワーメントの観点から、地域認識共有の停滞を指摘できる。つまりGMSという地域認識が政府実務者および研究者の間に未だ限定されており、企業や生活者は伝統的な地理認識に基づいて国家障壁除去を期待するのみである。ここに共通価値の涵養は期待できない。しかし、ミャンマーおよび雲南が経済・社会の新拠点として機能すれば、さらなる物理的相互依存の深化を促し、地域メカニズム融合を誘引することで、市民性や普遍的価値を生み出すことが予想される。これは、ボトムアップ機能の検証の点で仮説立証の事例研究の側面から進展したと言える。 また、越境的な移動が日常的な生活空間において国境線が親密圏の拡大のためのゲートウェイという役割を果たしている点の検証については、「韓日知識人ネットワーク会議」の沖縄会議「東アジア平和空間の創出-沖縄で考えるアジアと平和」において、排他的・敵対的な関係がどのように平和的関係に転換されるのかを議論することができた。このことは、東アジアスケールにおけるEpistemic Communityの成員として、この科研費グループが積極的なファシリテート型研究の新しい地平を切り開く比較検証の有効な事例となりうる。GMSの国境が絶対的排他的なものから親密な生活圏に転換されることの仮説立証プロセスでも、このようなEpistemic Communityの役割の検証が次年度以降、引き続き検証されなければならないことも課題として浮かび上がった。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は「地域の論理」に重点を置いた現地調査を実施し、平和空間としてのサブリージョナルガバナンスのあり方を検証した。その平和空間構築に際しては、Epistemic Communityの役割が重要であることが明らかになった。26年度は、サブリージョンの自立的なガバナンスと国家戦略の影響との間の緊張・共振関係を比較・分析することによって、越境地域協力の国際秩序における役割・機能を明らかにしたい。仮説として、日本を例にとると、東アジアにおけるサブリージョナルガバナンスは、日本の国家戦略と結びついているとも考えられる。すなわち、本研究に照らして考えると、日本にとってはGMSの地域協力の強化は、近接地域に対して影響力を拡大しつつある中国に対するカウンターバランスという側面を持っていると考えられる。しかし、一方、中国にとっては親密圏的な領域の拡大ともなっている可能性が高い。26年度は、このような「国家の論理」の検証を中心に据えて、メコン・インスティチュートなどの国家間機構へのインタビュー調査などを実施し、国家のサブリージョナルガバナンスへの参画意図を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
GMS(拡大メコン圏)現地調査団のうち2名が入試業務や体調不良などのため参加できず、調査団が当初予定の6名から4名へと変更になったため。 26年度の現地調査を質量ともに一層充実したものとするほか、最終年度の国際シンポジウムなどの経費に充当する。
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