本研究の最大の成果は、ロシア領土の三分の二以上の面積に住む先住少数民族の実態について現地調査を実施し、グローバルの潮流に巻き込まれながらも、自分たちの伝統習慣を固持していることが具体的に浮き彫りになったことにある。調査はシベリア極北からシベリア南部地帯、さらにはモンゴルと国境を接する山岳地帯の先住民におよび、当初の研究対象としてあげていた先住民のほぼ全部を対象に調査を実施できた。ロシアを論じる場合、モスクワやサンクトペテルブルクなどのロシア・ヨーロッパ地帯や都市部だけを研究対象としただけではロシア社会を知ることができないという本研究のそもそもの問題意識の設定に間違いがないことがわかった。 特にシベリア極北の先住民ネネツ人の居住地は、天然ガスと原油の世界的な産出地であり、資源の開発とパイプラインの敷設は先住民の生活を圧迫する。パイプラインはシベリアから欧州各国に西にむけてのびるが、トナカイ放牧で生活の糧を得ている先住民は夏にはシベリアの北端、冬にはシベリア南方へと移動する。このような移動をパイプラインは障害となる。極北のツンドラはいったん表土を切り取られると、100年もの間、植物のコケ等が生育することはない。ロシア政府はシベリアの天然資源を欧州に輸出することで外貨収入を得ているが、他方でその地の先住民にとってその動向は脅威となっている。 このような様相は現地調査することでわかることであり、この点において本研究は大きな成果を得ることができた。
|