研究課題/領域番号 |
25301042
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大場 伸也 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80221836)
|
研究分担者 |
ゲラン ジル 岐阜大学, 地域科学部, 准教授 (40402151)
Aフォン フラクシュタイン 岐阜大学, 地域科学部, 准教授 (50402152)
池谷 尚剛 岐阜大学, 教育学部, 教授 (70193191)
菊池 啓子 中部学院大学短期大学部, 幼児教育学科, 准教授 (70369528)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ヨーロッパ / タイ / 農業 / 福祉 / 特別支援教育 / 就労支援 / 産業教育 |
研究実績の概要 |
共生社会の構築に当たり、社会的弱者である障がい者などが一般社会に参加し生活基盤を確保することは重要である。その中で、農業が有力な産業基盤である非都市部では、障がい者の雇用や活躍の場としての受け皿として農業分野が期待される。障がい者のための福祉農場は、ヨーロッパ諸国では長い歴史と実績を有するが、我が国においては農業と福祉の連携に関する知見は乏しい。そこで、海外での調査研究を通し、日本型の福祉農業を構築するための検討を行う。平成26年度は、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、フランスのヨーロッパ諸国とタイ国において、調査研究を行った。ベルギーの施設では、地元のワイン醸造企業との協力のもとワイン醸造に取り組むブランド化を図っていたが、この施設では、この職員への個人的負担が大きく、当初ワイン生産を開始したころに比べ障がい者の参加の比率は低下し、室内での芸術活動や軽作業の割合が高くなっていた。一方、同様にワイン生産に取り組むドイツの施設では、施設自らが広大なブドウ畑を保有し、障がい者とともにブドウ園の管理作業や収穫作業を通年で行い、ブドウ収穫後はワイン醸造を行っていた。この施設の場合、ブドウ栽培とワイン醸造の技術を保有する職員がいることで、安定した高い品質と生産量をつくりだし、市場を確保していた。オランダでは、ケアファームと呼ばれる、農家が主体となった障がい者や高齢者の受け入れ施設について調査した。一方、タイにおいては、特別支援学校での障がい者に対する訓練の充実を目指しているが、就労支援に関しては途上にある。このため農業は障がい者が経済活動に参加しやすい分野であり、特別支援教育関係者は高い関心を持っており、海外での活動状況や訓練方法、課題と可能性について高い関心を持っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、①ヨーロッパの福祉農業の調査として、ドイツ、フランス、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダの調査を行った。また、タイ国においては、同国の特別支援教育に関する情報収集と課題を抽出するとともに、ヨーロッパならびに日本での農福連携の情報提供を行った。さらに、岐阜大学農場において、学生たちに農福連携の可能性を教えるために、農場実習の一部として社会的弱者との社会的共生についても検討する科目の設定準備を行った。 その結果、平成25年度のイタリアの調査でみられた有機農業実践農家での障がい者雇用の他に、オランダでは農業者がケアファームとして障がい者や高齢者の滞在型農場の実践を見出すことができた。また、ドイツやフランス、ベルギーなどでは、障がい者施設が日本ではほとんど見られない大規模複合経営による農業の取り組みを行っており、障がい者への作業提供と経営に関して安定させていることが分かった。さらにこれらの状況を、タイの特別支援教育関係者に情報提供し、タイ国教育省の関係者と日本の研究者との連携やシンポジウムの可能性について協議した。タイ国では、特別支援教育で農業に取り組み事例があるが、就労支援や卒業後の福祉施設の設立が遅れており、卒業後の進路が閉ざされた状況にある。そのため、本研究での取り組むをきっかけとして、岐阜大学とタイ教育省との連携協定の枠組みに発展させることができた。 また、岐阜大学応用生物科学部の学生に対して、共生に関わる農場実習の教育メニューの開設準備を行い、平成27年度から2年次生以上を対象とした「共生のための実践的農場実習」を開講させることにつなげた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年ならびに26年の調査から、ヨーロッパの農業と福祉の連携策には、農業者が取り組む内容と、社会福祉法人などが取り組む内容の2つがあり、後者の場合は大規模複合経営が重要な要素となっていた。また、大規模農業を実践する場合、高度な専門技術と知識、計画立案能力が求められるため、専門知識を持つ職員が存在する場合が多かった。一方、農業者が取り組む事例としては、イタリアの有機農業を骨子とした障がい者と消費者の参加型の取り組みと、オランダでの障がい者や高齢者が農場に滞在するケアファームが興味深い。そこで、最終年度に当たる本年度は、イタリアとオランダでの取り組みに焦点を当て、可能性と課題を明らかにし、日本へこのシステムを移植する場合の方策を検討する。また、タイ国では、農業と福祉の連携に関しての関心が高いことから、これまでの研究成果をシンポジウムの形で同国内で実施するとともに、特別支援教育における農業の取り組みに関する課題を、シンポジウム出席者へのアンケート形式で明らかにする。 さらに、岐阜大学農場において実施する「共生のための実践的農場実習」において、学生らに障がい者雇用や実際の農場見学を通した学習に対する意識調査を行い、教育におけるこの取り組みの評価を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1)タイ国での調査を通して、現地での農業と福祉に関しての先進各国.での取り組みに高い関心があることが分かった。このため、これまでの研究成果の中間報告を同国の特別支援教育関係者に対して行うことは、有意義であり、この分野の国際的発展にも結び付くことから、平成27年度にシンポジウムを開催するための予算に振り向けることにした。 2)フラクシュタイン准教授が、平成26年7月から12月まで健康上の理由で帰国し、予算執行できなかったため、この予算を平成27年度に振り向けた。
|
次年度使用額の使用計画 |
タイ国において、シンポジウムを開催し、これまでの研究成果の報告をするために使用する。
|