本研究では、とりわけそのシステム及び環境を大きく左右すると考えられるガバナンスを分析の視角とし、これをタテに展開して、マクロレベル(高等教育政策・改革動向)、ミドルレベル(大学の運営機構・機能とその実際)、ミクロレベル(学生教育の最前線にある教員の意識と行動)の三層に区分して分析する試みである。 研究成果としては、マクロレベル(政策)で規定される「学士力」、ミドルレベル(個々の大学)で設定されている「学士力」、ミクロレベル(最前線の大学教員)で個人の理念として考えられている「学士力」の三層間で一致点と乖離点、一致点と乖離点に作用する三層間の相互作用の実態の解明を試みた。そして、これら三層間の相対的相互作用の結果として、教学ガバナンスのどのような要素が最終の「学習成果」たる「学士力」を左右するかを、本研究によって特徴的大学を訪問調査することで明らかにした。つまり、イギリスの大学においては、①カレッジ(College)ガバナンス、②委員会(Key Organ)ガバナンス、③米国型ガバナンス、④理事会(Board of Governors)ガバナンスと類型化できた。 日本の大学においても、その実態を明らかにするために全国規模でアンケート調査を実施した。その結果、大学ガバナンス改革は世界的な潮流となっており、その主たる方向は、自律性拡大、執行部の経営機能強化(professionalization)、リーダーシップの強化、運営への外部者の参加等を特徴としている。しかしながら、組織の円滑な運営には、これら以外にも重要な要素の存在が指摘されており(限定合理的行動、権力関係、葛藤、信頼、コミットメント、牽制・監視機能、権限・リーダーシップの分散化、組織風土・文化、戦略と組織形態の関係性等)、組織構成や運営の在り方に関する多角的な視点からの分析が必要とされることが分かった。
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