研究課題/領域番号 |
25303016
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 淳 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (50292884)
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研究分担者 |
鈴木 崇之 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (90397084)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水工水理学 / 海岸工学 / 東南アジア / マングローブ / 環境再生 / 気候変動 / 沿岸防災 / 持続可能性 |
研究実績の概要 |
初年度の平成25年度から引き続き平成27年度も,タイ湾奥部サムサコン県コーカム村の竹消波堤を用いたマングローブ再生域(バンブーサイト)とサムットプラカン県バンプ-市の石積堤を用いたマングローブ再生域(リベットメントサイト)において,測量,波浪観測,空中写真撮影等の現地調査を実施した.バンブーサイトの測量結果からは,堆積が終息している様子があらためて確認され,竹の劣化がさらに進んでいることからも,これ以上の底質堆積促進は限界があるものと考えられた.一方,空撮画像から地形やマングローブ再生状況の定量的な把握が可能であることを確認し,今後のモニタリング手法として有効であることが分かった.これらのサイトに加えて,新たにサムットプラカン県バンプー市において,竹消波堤を用いた新規のマングローブ再生域を対象とし,空撮によるモニタリングを開始した.このサイトの特徴として,少しずつマングローブ移植の開始時期の異なる3つの区域の比較ができることであり,物理環境の把握と併せ,マングローブ再生の初期段階における必要条件の把握整理ができるものと期待される.一方,リベットメントサイトでは急速なマングローブの再生が継続して見られ,空撮により,マングローブの分布域を捉えることができた.既に同サイト内はマングローブ樹林のため立ち入りが困難となり,測量がほぼ不可能となりつつあり,空撮を中心としたモニタリングを進めている. ベトナム・メコンデルタには広大なマングローブ域が広がっており,カントー大学の協力を得て,マングローブによる波浪減衰効果に関する波高計を用いた現地観測を開始した.同時に対象マングローブ域における樹種,樹林密度,地形測量を併せて行い,マングローブによる波高低減効果等に関する検討を行った.加えて,ベトナム・カムラン湾において,マングローブ沼地を含む沿岸環境に関する調査を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に構築したタイ側関係機関の協力を得た現地調査は概ね予定通り実施することができ,空撮によるモニタリングも本格的に実施することができた.さらに,新規のマングローブ再生域における調査が実施でき,マングローブ再生初期における知見の蓄積を開始することができた.一方,平成25年以来対象としてきたバンブーサイトでは竹の劣化が進み,底質堆積はこれ以上の進展が見込めない可能性も出てきた.このように様々な現場の状況があることからなるべく多くのサイトにおいて調査研究を実施するとの方針で研究を展開してきており,概ね順調にすすめられていると考えている.加えて,平成27年度よりベトナム・メコンデルタにおいて,新たにマングローブによる海岸災害の減災機能に関する研究を開始することができた.ベトナム・メコンデルタは世界的にも有数の広大なマングローブ域が広がる地域であり,この地域を対象にマングローブそのものの有する海岸災害に対する減災効果の検討を行うことは,気候変動影響下にあるマングローブ沼地の沿岸防災を考える上で極めて有意義であると考えられる.そのような場でカントー大学の協力の下で研究体制を確立し,樹種や樹林密度等を考慮した波浪減衰効果に関する現地調査を開始することができたことは特に有意義であったと考える.
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今後の研究の推進方策 |
タイ湾奥部におけるバンブーサイトとリベットメントサイトにおけるマングローブ再生事業に関する現地調査を継続していく.平成27年度より新たに対象としたサイトにおいては,調査の効率性を上げるため,空撮を中心とした調査を進めていく.また,マングローブ再生における成功例と失敗例についてさらに見極め,その原因についてより詳細に検討していく予定である.その中では,波浪外力の重要性に鑑み,物理場の相違等についてもより詳細に見ていく予定である.また,マングローブ再生過程についてさらにデータを蓄積し,再生スピードと地盤の関係等について精査していく予定である. ベトナム・メコンデルタにおいては平成27年度より開始したマングローブ沼地の海岸災害減災効果についてさらに調査解析を行っていく予定である.平成27年度末に取得したデータの解析を進めて行くと同時に,さらなる現地調査を行い,様々な海象条件下および様々なマングローブ樹林タイプの下での調査研究を展開していく予定である. 平成26年度に実施したインドネシア・ポンドクバリにおける現地調査を平成27年度に再開する予定である.ポンドクバリでは過去10年でマングローブ沼地の海岸線が1km以上も後退し,満潮時には道路が冠水し,住宅もしばしば浸水するといった深刻な状況となっている.その中で嵩上げによる対策や,稲作からエビ養殖や魚養殖への生業の転換といったことが起こっているが,このような相対的な海面上昇に見舞われたマングローブ沼地における持続可能性について,インタビュー等をベースとした調査を実施していく予定である. さらに,台風常襲地帯であるフィリピンにおけるマングローブ沼地についても研究を開始する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度繰越額と平成27年度繰越額は同程度であり,平成27年度の支出額はほぼ当初予定通りであった.平成27年度は研究代表者が所属機関の管理運営業務に時間を割かねばならない立場にあったので,より多くの時間の確保が可能な平成28年度に繰り越すことで,予算をより有効に使用できると判断した.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は平成26年度に実施したインドネシアにおける調査研究を再開するため,これに用いる予定である.
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