研究課題/領域番号 |
25303028
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究分担者 |
川本 純 京都大学, 化学研究所, 助教 (90511238)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低温適応微生物 / バイオプロセス / タンパク質生産 / 金属代謝 / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
(1) 低温環境に生息する魚類の腸内から低温での増殖能とタンパク質分泌生産能に優れた低温適応微生物を探索した。その結果、菌体外に 70 kDa のタンパク質を分泌高生産する細菌 Pseudoalteromonas sp. Hpa2 が得られた。本菌はタンパク質低温生産系の宿主として有用と期待された。全ゲノム解析を行い、分泌高生産される 70 kDa のタンパク質の遺伝子を同定した。 (2) 南極海水から分離した Shewanella livingstonensis Ac10 が 0 ℃付近の低温環境下で三価の鉄(クエン酸鉄 (III))を最終電子受容体として嫌気呼吸を行う能力をもち、この鉄呼吸に外膜ポーリンタンパク質 PhoE が関与することを明らかにした。リン酸の輸送に関与する Escherichia coli の PhoE については、親水的な筒型構造を膜内で形成し、そこに含まれる正電荷を有するアミノ酸残基がリン酸の輸送に関与することが知られている。S. livingstonensis Ac10 の PhoE について立体構造予測を行ったところ、13個のリジン残基と 5 個のアルギニン残基がポーリン孔内に存在することが示唆された。これらの残基をそれぞれグルタミン酸残基に置換し、本菌の鉄呼吸能への影響を解析した結果、Lys313 がクエン酸鉄 (III) の取り込みに重要な役割を果たすことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温でのタンパク質分泌高生産に有用と期待される新規低温適応微生物の取得に成功し、また、低温でのメタルバイオテクノロジーに有用と期待される低温適応微生物の鉄代謝機構に関する重要な知見が得られるなど大きな進展があった。一方、低温での分泌高生産に向けての遺伝子操作系の確立には至っていないことから、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質の低温分泌高生産系の構築に向けて、分泌能に優れた低温適応微生物の探索を継続するとともに、得られた微生物の遺伝子操作系の開発を重点的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
低温適応微生物の特性解析の過程で、一部の低温適応微生物の主要菌体外タンパク質が、当初想定されていた遊離状態ではなく、膜小胞の積み荷として分泌されることを発見した。優れたタンパク質低温生産システムを構築する上で、膜小胞の生産能を指標とした微生物の探索・特性解析、さらに得られた微生物の遺伝子操作系の開発などを行うことが必要であるので、それらの実験を次年度に行うこととし、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
膜小胞の生産能を指標とした低温適応微生物の探索を行い、それらを宿主としたタンパク質の分泌生産系の開発を重点的に行う。そのためのサンプル採取にかかる旅費や、培養用試薬、遺伝子工学用試薬などの消耗品の購入に使用する計画である。
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