(1) 南極海水から分離した低温菌 S. livingstonensis Ac10 が菌体外に膜小胞を生産することを見いだすとともに、膜小胞に含まれるタンパク質を同定した。また、遺伝子操作により膜リン脂質組成を改変することで膜小胞の生産性を向上できることを見いだした。これらの知見は、本菌の膜小胞を利用した低温でのタンパク質分泌生産系の構築に有用と考えられる。 (2) 低温菌 S. livingstonensis Ac10 と、近縁の常温菌 Shewanella oneidensis MR-1 の鉄取り込み系を比較した。多くの細菌の鉄輸送に、TonB や ExbD で構成される膜タンパク質複合体(TonB 依存型輸送体)が関与することが知られている。両菌株について、これらのタンパク質の欠損株を作製した結果、MR-1 株では鉄還元能の低下が見られたのに対し、Ac10 株では鉄還元能に変化は見られなかった。一方、PhoE の欠損は Ac10 株では鉄還元能の低下をもたらしたのに対し、MR-1 では鉄還元能への影響は見られなかった。これらの結果から、両菌株は異なる鉄取り込み系を利用しているものと考えられた。 (3) 低温環境に生息する魚類腸内から低温増殖性とタンパク質分泌生産能に優れた低温菌 Shewanella sp. HM13 を取得し、本菌のゲノムの特定部位に任意の DNA 断片を導入する手法を確立した。この系は、熱安定性の低い低温活性酵素などの低温での生産に有用と期待される。
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