研究課題
イランのザグロス造山帯はプレートの沈み込み・衝突などに伴う火成活動が活発な地域であり、これらの火成活動はこの地域に数多く分布する金属・非金属鉱床の主要な生成要因の1つである。本調査研究の目的は、Rb-Sr、Sm-Nd系などの年代法を駆使し、火成活動の年代だけでなく熱水鉱床、堆積鉱床の年代を明らかにし、鉱物学的・化学的データと併せて成因解析を行うことである。3年目の現地調査は前年度に引き続き、ザグロス山脈北西部のGhorveh地域、Sanandaj地域、Sanandajの南側のKermansha地域に加え、Sanandajの北側のSaqqez地域で行った。これらの地域には、錫・タングステン、磁鉄鉱、金などの鉱床が分布している。平成27年4~5月に2週間、代表者、分担者(1名)は協力者(大学院生1名、イラン側の研究者1名と大学院生3名)とともに調査を行った。採取した80試料の火成岩、鉱石について、主要・微量元素の定量分析を名古屋大学および関西学院大学のXRF、ICP-MSで、Rb-Sr、Sm-Nd系の同位体比測定を名古屋大学のTIMSで行った。また、15試料についてLA-ICP-MSによるジルコンU-Pb年代測定を行った。その結果、Kermansha地域では、複数タイプのオフィオライト岩体の分布が明らかになった。新たに確認されたタイプは、アラビアプレート沈み込みに伴う背弧海盆の形成を初めて明確に示すものである。Saqqez地域の磁鉄鉱鉱床や金鉱床は堆積鉱床であり、その周辺に分布する花崗岩・閃緑岩の岩体は、古生代またはそれ以前に形成されたと従来考えられていたが、年代測定の結果、これらの岩体の大部分は白亜紀中期に形成されたことが明らかになった。この地域の磁鉄鉱・金鉱床の一部はアラビアプレート沈み込みに伴う火成活動に関連する可能性があり、最終年度に再度現地調査を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した平成27年度当初の研究実施計画は順調に進展している。進捗状況を詳細に分析すると、平成27年度までの研究実施計画の中核部分は進展しているものの、遅れている点と当初の計画以上に進展している点の両方を含んでいる。その具体的な内容は次のとおりである。(遅れている点)平成27年度の研究実施計画のうち、テヘラン西方のTarom地域の鉄リン灰石鉱床の調査を十分に実施できていない。その理由は、このザグロス造山帯北西部の火成活動の全容を把握する過程で、従来Saqqez地域で推定されていた年代と大きく異なる年代データが得られたため、最終確認のための試料採取と追加データの取得を優先したためである。しかしながら、研究協力者からのTarom地域の試料の提供を受けることができたため、鉱石や火成岩の変質部に産する二次鉱物を使った年代測定や成因解析を一部進めている。平成27年度末時点ではこの年代測定と成因解析が未完了であるが、現在分析を継続中である。(当初の計画以上に進展している点)2年目および3年目に調査を行ったGhorveh地域、Kermansha地域の火成活動について、順調に分析・解析が進み、その一部は論文としてまとめた。平成27年度は、本研究に密接に関係する論文を国際誌に2編を公表するとともに、関連論文も国際誌に1編公表した。さらに2編が投稿中、3編が投稿準備中であり、研究成果の公表は極めて順調に進んでいる。平成27年度の研究実施計画は、以上のとおりおおむね順調に進展しており、最終年度(平成28年度)の1年間で、当初の研究目的を達成できる見込みが十分ある。
過去3年間で、研究実施計画の当初予定の繰り上げや当初予定より広範な地域での調査を進め、本調査研究はおおむね順調に進展している。最終年度の現地調査は、これまでの調査地域の追加調査が中心になる。4月下旬から5月上旬の約2週間と9月下旬~10月上旬の約10日間の2回実施予定であり、すでに準備が進んでいる。具体的には、テヘラン市西方150kmのTarom地域で、鉄燐灰石鉱床の2つの鉱区を中心に調査を実施するとともに、Sanandaj地域とSaqqez地域で、磁鉄鉱鉱床・金鉱床とその周辺岩体を中心に調査を実施する。鉱石や火成岩の変質部に産する二次鉱物を使った、Rb-Sr、Sm-Nd系の年代測定と成因解析を平成27年度から継続して実施し、平成28年度に新たに採取する鉱石試料などについても分析・解析を進める。以上の現地調査、化学分析、年代測定を進めながら、9月下旬の現地調査の際には、現地の研究協力者と一緒に4年間の研究成果の報告会を行い、さらに、これまでの実績に基づき来年度以降の新たな研究計画を作成する。成果公表については、平成28年度も学会発表、論文執筆に取り組み、国際誌に1編ないし2編の論文を投稿する予定である。
イラン・ザグロス山脈北西部の現地調査を行うための日本側の大学院生の研究協力者2名の旅費を当初予定して計上していたが、日本側の大学院生の研究協力者は1名であったため旅費に差額が生じ、次年度使用額が生じた。なお、研究協力者として当初予定していなかったイラン側の大学院生3名の協力も得て調査を行ったため、現地調査の実施に支障はなかった。
次年度使用額と平成28年度の請求額を合わせて、平成28年度に春と秋の2回、現地調査を行う計画である。当初計画では、2週間の調査を春に1回実施する計画であったが、秋にも10日間の調査を実施し、現地の研究協力者とともに4年間の調査研究の成果報告会も併せて行う計画である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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