研究課題/領域番号 |
25304008
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
村上 貴弘 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40374706)
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研究分担者 |
東 正剛 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (90133777)
坂本 洋典 玉川大学, 脳科学研究所, 研究員 (70573624)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アリ類 / 音声コミュニケーション / 進化 / 行動 |
研究概要 |
今年度は、8月までに国内での録音装置の開発、調整を終え、菌食アリの音声を録音した。8月下旬から9月中旬にかけて、パナマ共和国ガンボアにおいて、菌食アリ7属12種、ハリアリ類4属5種、グンタイアリ類3属4種の音声を野外および実験室内で録音した。録音時間は延べで10時間以上となった。 国内において、実験室内でフタフシアリ亜科4属4種、ヤマアリ亜科2属2種の音声を録音し、菌食アリ、ハリアリの音声解析、操作実験を行った。その結果、最も社会形態が複雑なハキリアリ属(Atta属)では40種の音声が記録され、そのうち16種は統計的に有意に異なる音声であることが示された。Acromyrmex, Sericomyrmex, Trachymyrmex, Cyphomyrmex, Apterostigma, Myrmicocryptaと社会形態が単純になればなるほど、音声の種類や頻度は低下していた。菌食アリ類では社会形態が進化するほど音声コミュニケーションが複雑化することが示唆された。 これまで音声コミュニケーションを行わないとされていたグンタイアリ類で音声が確認された。とくにこれまで生態、形態の報告がほとんどないCheliomyrmexにおいて音声データが撮れたことは大きな成果といえる。 国内のフタフシアリ亜科は全て音声を発していた。ハリアリ、ヤマアリは音声を確認することができなかった。固定した標本を用いてSEM画像撮影を行った。その結果、菌食アリ、国内のフタフシアリ亜科ではこれまで記載されていた後腹柄節のみならず、前腹柄節や胸部末端にも発音器官と類推される構造物を記録することに成功した。ハリアリ亜科4種には発音器官が見られたが、ヤマアリ亜科では確認できなかった。これらのことから、アリ類における音声コミュニケーションの実態と進化の道筋が類推できるものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的はアリ類の音声コミュニケーションの実態を明らかにすることにある。これまで、アリ類のコミュニケーションには化学刺激が主に利用されてきたと思われていたが、本研究から、より複雑な社会形態を持つハキリアリにおいて最も多様な(40タイプ)の音声が記録されたことから、アリ類においても音声がコミュニケーションの手段として利用されていること、社会進化と深い関連があることが示された。これは、本研究の1年目の目的を十分に達成している。 それに加え、SEM画像解析を行い、新たな発音器官と類推される構造物を発見できたことは、アリ類の音声コミュニケーションの進化を考える上で非常に大きな発見であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はアリ類のコミュニケーションメカニズムを解明することを大きな目的としている。本年度は予備的実験を行ったプレイバック実験を行い、人工的に聞かせた音声で働きアリや女王アリの行動が変異するかどうかを記録、解析していく。そのためには高性能の小型スピーカーや効果的な音声の抽出を行う必要がある。 また、SEM画像解析の結果が予想を超えて興味深い結果であったことから、今後も種数を増やし、アリ類における発音器官の進化段階を明らかにしていく。
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