研究課題/領域番号 |
25304011
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80212249)
|
研究分担者 |
古屋 康則 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30273113)
安房田 智司 新潟大学, 自然科学系, 助教 (60569002)
矢部 衛 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (80174572)
阿部 拓三 北海道大学, 水産学部, 助教 (90639270)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | カムチャツカ / ロシア / カジカ / 不凍タンパク / 分子系統 / 寒冷適応 |
研究実績の概要 |
本年度の標本採集は、カムチャツカ半島で行った。7月に函館から調査員4名がペトロパブロフスクカムチャッツキー市に行き、カムチャツカ工科大学の海外研究協力者とともにチャーターしたボートでアカバ湾周辺を約1週間潜水による標本採集をした。この年は、冷夏の上に、調査期間中も低気圧に襲われることが多く、厳しい調査行であった。そのため、15種130個体(他、未同定標本約50個体)と、期待した7割程度にとどまった。 本年度採集した標本に加え、前年度までの採集標本は、カジカ類全体の分子系統解析と不凍タンパク質遺伝子の解析に用いた。分子系統解析は、カジカ上科魚類約150種で実施し、現在までミトコンドリアDNA3遺伝子座の解析が終了し、核ゲノムの解析に着手した段階にある。ミトコンドリアDNA解析は、当初、次世代シーケンサーを使って全周解析する予定であったが、保存時間が長くなった標本は細分化が進み、ロングPCRが出来なかったため従来法で行った。この結果を踏まえて、保存方法について検討したところ、ボイルしてアルコールに漬けることで、極めて良好な状態で保存できることがわかった。そのため、この研究課題で採集した標本は、すべて同様の手順で保存した。 不凍タンパク遺伝子解析は、先ず、発現を調べるため、カジカ科17属29種について活性解析を行った。この解析は、冷凍又はホルマリンで保存した標本の組織を特殊処理することで、結晶構造を顕微鏡で観察可能になる方法で行った。その結果、カジカ類の不凍タンパク発現能力は、系統と関係なく、低温環境で生息種で見られることがわかった。現在、cDNAの解析も進めており、いくつもアイソタイプがみられるなど、カジカ類の低温適応に関する新知見が得られつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進行状況が、海外調査においては天候不順で期待していた成果が得られなかった。それでも概ね順調と自己評価している理由は、それまでに得られた標本を使った研究活動が順調に進んでいるためである。 カジカ類全体の分子系統解析は、カジカ上科魚類の35%、海産種限ると50%近い150種あまりを採集し、現在までミトコンドリアDNA3遺伝子座の解析が終了している。ほとんどのカジカが、漁業や調査船を使った作業では採集されない小型かつ稀種であることを考慮すると、これほど多くの遺伝子分析が出来るカジカ標本を収集したことは大きな成果だと思う。核ゲノムの解析も今年度中には達成できる見通しにある。 不凍タンパク遺伝子解析は、発現を調べるための活性解析とトランスクリプトーム解析を行った。前者は、当初計画では予定していなかったが、本学に専門家が居られたことから研究実施者の博士課程在籍者(学振DC特別研究員)が中心となって共同研究を始めた。カジカ類の不凍タンパク発現能力は、系統と関係なく低温環境で生息する種でふつうに見られることなど適応進化した形質であることがわかってきた。cDNAの解析は、サザンハイブリダイゼーションによる常法で行った。この実験では、想像以上に多くのアイソタイプがみられたことから、次年度は「今後の研究の推進方策」にも記すが、次世代シーケンサーを使い網羅的探索によって関連する遺伝子群を解明することになる。以上のように、カジカ類の低温適応に関する多くの新知見と、この分野の課題が明らかになって来た。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、7月にカナダ・バンクーバー島での潜水調査を予定している。この場所では、2007年3月に標本採集を行っており、比較的多くの種が採集できた。今回は時期を変えることで、この時期に繁殖期を迎える種や着底稚魚の採集を目指す。アラスカ半島からバンクーバー島にかけては、カジカ類が最も多くの種が生息している海域であるため、最初の適応放散地であることを多くの分類学者が指摘している。昨年度のカムチャツカ調査では、天候不順で成果が乏しかったが、バンクーバー島は実績のある場所であり、調査をサポートするカナダ人研究協力者とコミュニーケーションがうまく取れているので、期待値を高く設定し調査にあたる。 ラボワークとしては、カジカ類の分子系統に関しては、核ゲノムの分析を完了し、投稿論文の執筆を始める。また、一昨年に臼尻で初めて見つかったダンゴウオ科魚類が昨年のカムチャッツカ半島調査で採集したナメダンゴと遺伝的に同一の種であることがCOI分析より明らかになった。しかし、形態的にはかなり異なっており、更なる分析が必要な状態にある。ナメダンゴは、北太平洋に広く分布する種であり、今年度の調査でもカジカ類に次ぐ採集対象種としてしている。 不凍タンパク遺伝子解析は、関連する遺伝子座が非常に多いことがわかったため、次世代シーケンサーを使った網羅的解析をする。また、海外調査地のバンクーバー島においても採集した標本の一部を不凍タンパクが発現する低温条件で飼育した後ホルマリン固定して持ち帰り、実験室で発現の可否を確認する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
標本保存用の液体窒素が当初計画していたほど、蒸発による減少量が少なかったため、その分が残額となった
|
次年度使用額の使用計画 |
標本保存用の液体窒素の補充が必要になるため、その購入代金に充てる予定である
|