研究課題
ボルボックス(Volvox)属は約20種から構成され、4個の節に形態分類されている(Smith 1944, Trans. Am. Microscp. Soc.)。多くの種または種以下分類群は産地が限定されており、例えばモデル分類群V. carteri f. nagariensis はインド~日本にかけて分布しているが、ヨーロッパやアメリカ大陸からの報告はない (Nozaki 1988, Phycologia)。今回のVolvox capensisはボルボックス節(Volvox sect. Volvox)に分類され、本節は群体の細胞間に太い原形質連絡をもつことを特徴としており、他のボルボックスの節およびユードリナ・プレオドリナとは系統的に分離する。V. capensis は1933年の原記載以来、南アフリカからの報告しかない種であり、Starr et al. (1980, PNAS) は南アフリカ産の培養株を観察している。今回,アメリカ合衆国モンタナ州より採取したサンプルから確立した培養株の観察結果を報告する。無性群体と雌雄同体の有性群体の形態から,本株はV. capensis と同定されが、雌雄同体の有性群体の精子束の数が少ないことと配偶子の接合様式が異なった。これまでの南アフリカ産のV. capensisの雌雄同体の有性群体では,精子束が形成されると群体の外に泳ぎ出て同一または別の有性群体へばらばらとなった精子が侵入し,卵と受精すると報告されている。しかし,今回の材料では精子束は雌雄同体群体の外に出ないで,そのままばらばらとなって同じ群体の卵と受精した。受精した卵を確認するためにDAPIによる蛍光染色で観察した結果,長円形の精子の核が卵の中に観察された。また,1個の卵に2~3個、またはそれ以上の精子核が観察される場合もあった。今回の株のITS-2核rDNA の配列は南アフリカ産の V. capensisと1塩基が異なるだけであり、生殖様式の速い進化が推測された。
2: おおむね順調に進展している
本年度はモンタナ大学の研究者の案内で米国モンタナ州からボルボックス3種を得て、培養株を確立することができた。その中の1種に関しては学会発表と論文投稿することができた、
今後、現地情報に詳しい地元の研究者の協力を得ることで、さらに新しいボルボックスが採集されると期待される。モンタナから採集された他の種に関する分類学的研究も実施すしたい。また、本年度の成果の Volovx capensis 株は植物では報告のない、生理的多精現象の可能性が強く、本株の卵生殖過程の更に詳細な観察を実施する予定である。
H26年度の秋に東南アジアに調査する予定であったが、カウンターパートの都合がつかず、調査を行わないことにしたため、次年次使用額が生じた。
このため、東南アジアの調査はH27年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Phycologia
巻: 54 ページ: 316-320
10.2216/15-14.1
巻: 53 ページ: 949-953
10.2216/13-193.1
Eukaryotic Cell
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巻: 53 ページ: 293-304
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Cytologia
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10.1508/cytologia.79.119