研究課題/領域番号 |
25304016
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
河田 雅圭 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (90204734)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 温度適応 / アノールトカゲ / ニッチ進化 |
研究実績の概要 |
種が新しい環境に適応して、分布を拡大できるかどうかは、生物多様性を決定する重要な要因の 一つである。しかし、異なる気候帯へ適応して新たな生息地へ侵入するような進化は、まれにしか生じていない。キューバに生息し、木の幹から地上で生活するアノールトカゲは、森林内部や 林縁、開けた環境のように生息温度環境を違えることで異種が共存している。キューバのアノー ルトカゲの一種(Anolis homolechis)は、通常は中温高湿環境の森林林縁部に生息しているが、キューバ東南部の個体群で異なる気候帯(高温乾燥環境の半砂漠灌木)に生息する同種集団が生息している。昨年度から、キューバ東南部の集団のA. homolechisおよびA.jubarの個体を採集し、さらに、現地の環境調査を本年度も継続した。環境データから、半砂漠地帯は平均で約5℃高温環境であることがわかった。現地で捕獲した個体を東北大の実験施設で飼育し、森林集団と半砂漠集団個体の温度指向と温度耐性について比較した。その結果、平均体温は、半砂漠集団で5度ほど高い傾向にあった。また、30℃と35℃の体温の時の最高走向速度を測定したところ、35℃の体温の時に、森林集団の個体は、速度が低下することが分かった。また、現在、キューバ東南部の複数の集団を使ってRAD-seqを試みるために、実験的に一部集団の個体のRAD-seqを行った。実験条件の不具合から数十のSNPしか検出することができなかったが、今後実験を改良していく予定である
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
森林集団と半砂漠集団の個体での温度耐性や温度選好の違いについての検出についての実験成果が得られた。また、ゲノム解析のためのサンプル収集が成功し、現在、ゲノム解析の準備、試行段階である。
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今後の研究の推進方策 |
森林帯と半砂漠灌木帯の A. homolechisの温度代謝の違いを検出するために、異なる温度での酸素消費量を測定する。酸素消費量測定には、小動物用代謝測定装置を用い、チャンバー内の酸素消費、二酸化炭素排出量をセンサーにより測定する。これにより、2種の温度パフォーマンスカーブの違いを検出する。 異なる温度への適応に関わる遺伝子を検出するために、森林帯と半砂漠灌木帯の A. homolechis を2つの異なる温度環境で飼育し、肝臓、脳、皮膚のRNAを抽出する。RNA-seqを行い、2つの温度環境で異なる発現を示す発現変動遺伝子を検出する。発現変動遺伝子のなかで、2種で異なる反応をする遺伝子を検出する。これにより、どの遺伝子の発現の変化が高温耐性・適応に関わったかが検出できる。森林帯と半砂漠灌木帯の A. homolechis 間で異なる自然選択を受けた領域の検出、およびA. jubarとの交雑浸透の可能性を調べる。そのために、ゲノムサンプルを用いて、ゲノムワイドなSNPを検出できる次世代シークエンサーを用いたRAD-seq解析を行う。検出されたSNPマーカーを用いて、遺伝構造を解析し、森林のA. homolechis集団にA. jubarの遺伝子が浸透交雑しているかどうかを調べる。また、検出されたSNPのうち、BayeScan, LOSITAN, Bayenv2というprogramを用い、2つの環境下で異なる選択をうけて分化したSNPを検出する。前述のRNA-seqにより検出された種間で異なる発現変動遺伝子とRAD-seqで検出された選択を受けた遺伝子が一致した場合、その遺伝子が、半砂漠地帯の高温環境への適応進化に影響した遺伝子であると推測できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンサーにかけるためのサンプル調整が遅れて、次年度使用することになったため。 また、実験補助の謝金が本年度計画より多く必要になるため。
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次年度使用額の使用計画 |
サンプルのRAD-seqおよびRNA-seqを次世代シークエンサーを使って実施するために使用する。 また、そのためのサンプル調整およびデータ解析のための実験補助のための謝金に使用する
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