研究課題/領域番号 |
25304017
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
幸田 正典 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70192052)
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研究分担者 |
堀 道雄 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (40112552)
高橋 鉄美 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (70432359)
守田 昌哉 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (80535302)
武山 智博 岡山理科大学, 地球環境科学部, 准教授 (70452266)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 共同繁殖 / 血縁ヘルパー / 分散遅延仮説 / 生態的制約仮説 / pay to stay 仮説 / 野外実験 / 雌による雄の父性認識の操作 / 共同的一妻多夫 |
研究概要 |
初年度は、タンガニイカ湖南端域にて共同繁殖魚オブスキュルスのヘルパーの手伝い行動の実態の把握、ヘルパーの滞在機構あるいは分散遅延機構としての「pay to stay」仮説の検証、特に生態条件制約による分散遅延仮説の検証を、浅場と深場で比較することおよび除去実験を野外で実施した。現在はこれらの成果および結果の解析を精力的に行っている。浅場に比べ深場では魚食魚の捕食の危険が明らかに高く、このため成長した子供や親の分散が制限され分散遅延が生じていることが、個体の移動や血縁判定からも明らかになりつつある。このように深場の方がヘルパーの保護行動が顕著である。それにともない、ヘルパーを除去した場合深場の方が、その分親の仕事量が増えるし、浅場ではヘルパー除去の効果が検出しにくいくらいである。また、ヘルパーを一時的に隔離し、手伝いをさせない状況にその後元に戻す実験をした場合、深場ではヘルパーは親に対し融和行動を高頻度で取るし、実際にも親からよく攻撃を受ける。これに対し、手伝いがそれほど多くはない浅場ではヘルパーから親への融和行動はそれほど多くはなく、また親からヘルパーへの攻撃もあまりない。これら一連の結果は、ヘルパーの役割が移動分散しにくい深場で大きくなっており、この深場ほど共同繁殖の程度が強いことが伺える。同じ個体群内で、生態的制限が異なる二ヵ所で比較検討できたこれらの結果は、効果的に共同繁殖に関する検証ができたと考えられる。 また、共同的一妻多夫魚であるオルナータスについては、同時に大型♀が形成する古典的一妻多夫についても調査した。予想通り、大型♀が中型♂と配偶する場合は、♂を複数個体囲うことが認められ、一妻多夫が形成されることがほぼ示された。 ♀が単独で子供を保護するモンダブでは、♀による給餌行動についても、本族魚類で始めての事例として実験的に確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、共同繁殖魚の未調査種の一種でヘルパーが親の子育てを手伝っていることがほぼ野外実験も含めて確認することができた。これは魚類ではプルチャーに続いて2種目である。しかも、捕食圧という生態条件が異なる浅場、深場で比較研究も実施できており、非常に効果的に示すことができた。また、プルチャーと異なり、親がヘルパーを直接管理すること、子供のうち♀が♂の子供よりも早く分散するなど、プルチャーとは異なる側面がすでに見えてきている。このように初年度から定量的な明瞭な成果が得られていることは、十分に満足のいくものである。 また、共同的一妻多夫のオルナータスでも、大型♀が中型♂を囲う場合、古典的一妻多夫になることもほぼ確認できた。このような、古典的一妻多夫も魚類では3例目であり、その意味で発見の価値は十分に高いといえる。オルナータスについては、国内での水槽実験で♂の放精量の計測から、協同的一妻多夫での雌が、擬似産卵行動により♂の父性認識操作仮説がほぼ証明されたといえる。 また、ネオランプロローガス族のブッシェリーの予備的調査から、大型♂は縄張りを維持し大きな縄張り♂ほど多くの雌を囲っていること、約半分の雌の巣では、雌より一回り小さな個体が一匹巣周辺での滞在が許されていることが、確認された。更なる野外調査が必要ではあるが、ヘルパーであることはほぼ間違いなく、血縁ヘルパーか非血縁ヘルパーいずれであっても、その形態、生息場所、巣の形状を考えると極めて興味深い研究対象である。 以上のように、共同繁殖について、本調査から新たな知見がどんどんと得られている。また、マリエリについても、予備調査により、来年度の野外調査地がほぼ決まるなど、こちらも順調に進んでいる。これらの点を考えると、初年度の研究成果は十分といえ、おおむね順調に研究段階は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
オブスキュルスについては、調査で得られた標本からDNAの解析による血縁判定を実施する必要があり、今年度はそれを実施する。昨年の調査での本種のビデオ映像や観察資料の解析を進める。これらのうち、まとまったものから、論文成果としてまとめていく。また、オルナータスの室内実験での♂の父性判定も同時に実施する。 タンガニイカ湖では、オルナータスの古典的一妻多夫やマリエリの多彩な婚姻形態の野外調査を実施していく。マリエリについては、調査地(チサンザ)の選定が済んでおり、2年目から野外調査を実施していく。マリエリは、脊椎動物で見られるほぼすべての婚姻形態が見いだされることが期待できる。調査地はベース基地から離れており、簡易ではあるが調査基地(チサンザ)を別途設けることを計画している。ここでは幸田、佐藤、多田が調査を担当する予定である。 2010年尾調査からブッシェリーは、その系統関係を考慮すると大変興味深い社会構造を持つ可能性がわかっており、共同繁殖の系統進化を考える上で外せない。小型ヘルパー個体を捕獲し性判定、血縁判定を実施していきたい。そのために2年目での観察個体の捕獲を是非とも実現させたい。また、本種の社会形態の解明には、国内での飼育実験からも社会構造の解明を目指したい。飼育実験は武山が担当する。 また、プルチャーについては親敵効果をふくむ個体認知の行動基盤を野外実験をとおして解明していく。個体認識のメカニズムが明らかになりつつあり、この発見が他の血縁ヘルパー型共同繁殖魚種(サボりなど)でも当てはまるか、魚種を広げて調査を実施する。また、共同繁殖の進化を考える上で、共同繁殖魚種の近縁種でありながら、共同繁殖でない種が存在している。これらについて、なぜ共同繁殖になっていないのか、生態的な要因の解明もテーマとしたい。現地での調査機材は初年度のものを利用していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は研究協力者であったジョーダン博士が、所属先の変更のため、ザンビアでの現地調査に赴けなかったため、その分の旅費や諸経費の余剰が生じた。ジョーダン博士は今年度、現地タンガニイカ湖で調査を行う予定である。 現地ザンビア国までの往復の航空運賃や、現地滞在中の宿泊費、日当などの旅費に余分に多くの補助金を当てることになるが、ここでは上限を設定する。また、物品費として、ボート運転の際のガソリン代金やボート操縦士に対する謝金も発生する。このように、今年度は現地派遣者が増えることにより、支出が増加する。
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