研究課題
基盤研究(B)
中国広西壮族自治省の南寧市に位置する約6000年前の灰窯田遺跡は2つのトレンチが屋根をかけて保全されている。平成25年度は11月に現地に出張し、広西壮族自治省の文物考古研究所の李珍らスタッフとともに、10名ほどの作業補助員を雇用し2週間のフィールドワークにおいて、灰窯田遺跡の2つのトレンチから35体の人骨の取り上げ作業をおこなった(全員)。人骨の実測と取り上げ作業のほか、層序の確認と墳墓の実測および撮影(松村・久保田)、石器を中心とする文化遺物の取り上げ(久保田・山形)、動物骨の採取(澤田)、墓溝のプラン確認(久保田)、年代測定用の炭化物と人骨片のサンプリング(松村)、DNA分析用の歯のサンプリング(篠田)を実施した。また同地域同時代の鯉魚坡遺跡出土の取り上げ済み約50体の人骨の整理作業も進めた。研究協力者として海外での発掘の経験が豊富であり、アジア考古学を専門とする学振特別研究員ならびに大学院生の協力を得た(久保田・渡辺・深山)。出土人骨と遺物の整理、洗浄、復元についても、フィールドワークと同時にすすめることにより、研究の要となる保存の良い頭骨が必要数得られており、他地域に広く拡散している新石器時代後半の農耕民とは形態が大きく異なり、南方オーストラロ・メラネシア系ないし旧石器時代のホアビニアンの集団に酷似していることが予見されている。計測データなどの詳細な分析による実証は次年度以降に実施する予定である。この年度にはカンボジアでインド太平洋先史学国際会議が1月に開催されたので、研究成果の中間報告をおこなった(松村・海部)。
2: おおむね順調に進展している
フィールドワークによる人骨の取り上げ作業は、予定よりも早く進行している。ただし人骨の洗浄復元などの室内作業は、やや遅れ気味ではあり、作業の内容により進行度に若干のバラツキはあるが、当初から研究期間の初年度には人骨の取り上げを最優先としていたこともあり、全体的には極めて順調といえる。
相手国の連携研究者代表である広西壮族自治省考古学研究所の李珍博士からは、日本側の精度の高い発掘技術に期待を寄せており、発掘トレンチのさらなる拡張をしたい旨、提案を受けている。これは当初計画にはなかった事案であるが、人骨の追加発見はもとより、ユニークな埋葬方法をはじめ、より多くの考古学的情報が得られることが期待されることから、予算の人員ならびに期間の調整を図ることにより、小規模ながらでも実施する方向で話し合いをすすめているところである。灰窯田遺跡と同時代同地域の鯉魚坡遺跡の人骨を合わせると約100体あまりの出土数におよび、もしトレンチ拡大を実行できなくても、すでに十分な人骨数の発見にいたっているので本研究に支障はない。学振PDの久保田氏には科研費の制度改変により本年度から研究分担者として参画することが可能となったため、分担者として調査に加わっていただくこととする。今後は人骨と発掘遺物の室内整理作業と研究を加速させる。またベトナムなど近隣国にも対比される遺跡と人骨が存在するため、比較研究を視野に入れた調査も進める。
中国南寧市ので実施中の灰窯田遺跡では、計画の想定以上に人骨の取り上げ作業が進んでいることから、広西壮族自治区の文物考古研究所の李珍博士をはじめとする中国側連携研究者より、発掘調査の拡張の提案がなされている。しかしながら次年度の予算のみでは実施が困難であること、前年度の資金の使用を効率効果的におこない、次年度への持ち越しによって、発掘の拡大が可能であること。これによりより一層の考古学的人類学的知見を得られることが期待されること、などから次年度使用が生ずることとなった。中国南寧市の灰窯田遺跡の発掘は現在のトレンチを拡張すること、また現在のトレンチにあってもさらに深層に掘り下げる作業が残っている。この作業は4週間以内とし、現地にて必要な発掘補助員等の人員確保と運搬車両の借り上げ、発掘調査に必要な消耗品の現地購入により実施する。また北京大学からも関連する研究者の発掘現場への依頼派遣もおこなう。日本側からは分担者の他に、専門知識をもつ大学院生等を数名作業に従事していただく予定となっている。ベトナムなど近隣国の対比される遺跡の出土人骨や遺物も比較研究の対象とする。
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American Journal of Physical Anthropology
巻: 153 ページ: in press
考古学ジャーナル
巻: 645 ページ: 25-29