研究課題/領域番号 |
25304025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井出 雄二 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (90213024)
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研究分担者 |
齊藤 陽子 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (00302597)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 葉緑体DNA / 核SSR / 希少樹木 |
研究実績の概要 |
熱帯雨林の希少樹木であり、本研究の対象種であるクスノキ科樹木ウリン(Eusideroxylon zwageri)の保全管理を目的に、天然林集団の遺伝構造を明らかにすることが本研究の課題である。インドネシアにおけるサンプリングを平成25年度と合わせてカリマンタン島7集団、スマトラ島2集団で行い、おおむね本種の分布域をカバーできた。また、次世代シーケンサーを用い、本種の核SSRマーカーの11座の開発および多型的な葉緑体シーケンス領域を抽出できた。これらのマーカーを用いて、サンプリングした全312個体の核SSR分析を行い、集団間の分化や遺伝構造を明らかにすることができた。また、各集団の持つ遺伝的多様性の程度も解明できた。なお、次世代シーケンサーを用いた核SSRマーカーの開発については、Conservation Genetic Resoursesに発表している。 核SSR分析の結果では、集団の遺伝的多様性はヘテロ接合度の期待値とアレリックリッチネスが、カリマンタン島の集団でスマトラ島の集団より有意に高くなった。近交係数FISが0より有意に大きい集団が5集団あり、集団内で近交度が高くなっていた。そこで、分析個体を胸高直径が25cm以上の個体に限って再解析すると、近交度が有意に高い集団は3集団となった。集団間分化については、AMOVA解析により、カリマンタン島とスマトラ島とで有意に異なっていることが明らかになり、島間の変異は全体の遺伝的変異の12.3%であった。ストラクチャー解析の結果、5つの保全エリア(東カリマンタン、中央カリマンタン、西カリマンタン、スマトラの2つの集団)に分けることが適切であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界的に外構材として賞揚されている一方、希少樹木である熱帯雨林のクスノキ科樹木ウリン(Eusideroxylon zwageri)の系統地理学的保全管理と違法流通阻止を目的に、天然林集団の遺伝構造を明らかにすることが本研究の課題である。これまでインドネシア国内の9集団について、核SSRおよび葉緑体DNAのマーカー開発および解析を行った。その結果、核SSRの解析から、インドネシアのウリンの保全単位は、5つとすることが最適であると提案できるところまで研究が達成できた。 また、葉緑体DNAの解析もマーカーが作成できたので、今後の解析により、新たに保全単位の提案が可能であると考えられる。 一方で、ウリンが天然分布するマレーシア国内のサンプリングは、サンプリングの許認可の関係から研究期間内には困難であると判断される。そのため、おおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、インドネシアにおける共同研究者の尽力により、インドネシア国内においてはウリンの系統解析に十分なサンプルを得ることができた。一方、ウリンの分布があるマレーシア国内においては、サンプリング許可を得るための手続きが長期にわたってしまうということもあり、研究期間内にサンプルを収集することが難しい状況である。そこで、今年度は最終年度となってしまっているので、研究期間終了後マレーシア国内でのサンプリングは必須であるため、マレーシア国内でのウリンの現状把握と現地研究者との関係構築のため、マレーシアを訪問して現地調査を行う予定である。 また、上記のようにインドネシア国内においては、共同研究者の協力で十分な研究がこれまでできたので、この成果を還元したく、これまでの解析結果が今後の可能性について、2015年12月にインドネシアで国際ワークショップを開く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウリンの分布域のうち、予定していたマレーシア国内でのサンプリングが許認可の点からできなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
マレーシア国内でのウリンの天然林の現状把握と現地協力者とのコネクションづくりのため、マレーシアへ渡航し、現地調査を行う。また、これまでに蓄積した知見をもとにインドネシアにおいて、現地協力者とともに国際ワークショップを行う。
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