研究課題/領域番号 |
25304027
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (30453153)
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研究分担者 |
松本 一穂 琉球大学, 農学部, 准教授 (20528707)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱帯林 / 細根 / 炭素循環 / 土壌呼吸 / 菌類 |
研究実績の概要 |
本研究では、樹木根系が熱帯林土壌の炭素動態に直接的・間接的に与えるインパクトに着目し、熱帯林における土壌圏の炭素貯留と炭素放出における根系の役割を評価することを目的としている。ここでは、未だ熱帯での適用例が報告されていない新しい調査法を用いた細根のターンオーバーの推定し、これまで熱帯ではブラックボックスとされてきた土壌呼吸の変動に対する根と菌根の役割を明らかにするため、(1) 細根の成長と枯死が土壌への炭素貯留量にもたらす影響、(2) 土壌呼吸における根系及び菌根の役割、の2種類の実験を実施する。実験は、申請者らが2002年から炭素循環の調査を続けてきたマレーシア、サラワク州にあるLambir Hills国立公園の4haクレーンサイトで行う。本年度は、同試験地において3つの実験プロットの設置し、以下の作業を行った。 1.課題(1)と(2)において、1年目に土壌中の細根の根系動態の制御とそれに伴う土壌呼吸変化を測定するため、6種の改良型イングロースコアを作成し、試験地に埋設した。今年度は、1年目に引き続き、埋設12か月後と24カ月後の2回に分けてコアを取り出し、中の根系増加量、根系分解量を測定した。また、実験(1)に関連し、1年目に埋設したCCDスキャナボックスにスキャナを定期的に差し込み、土壌の中のスキャン画像を取得した。さらに画像の取得に加えて画像解析方法について、主導抽出マニュアルを開発した。 2.実験(2)について、実験(1)で埋設した各コアの上部で土壌呼吸を測定した。さらに土壌呼吸の連続測定を行うために開発した自動開閉型チャンバーの試運転を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1-1)改良型イングロースコア法による細根のターンオーバーの推定:これまでに得られた細根の成長、枯死速度のデータを用いて、Osawa et al. (2012)の手法に基づき、枯死速度を考慮した生産速度の推定を行った。透根防水シートで覆ったコアから菌糸を取り出した。埋設24か月後には、全種類のコアを取り出し、細根量、粗根量、細根分解量、粗根分解量、菌糸生産量のそれぞれのデータを取得した。試算された細根成長量は、従来の報告よりもきわめて高い値が推定され、この原因として、これまで考慮されてこなかった細根の枯死、分解量が関与しているからと考えられた。 (1-2)CCDスキャナ法による土壌中の根系動態特性の解明と土壌環境因子との関わり:毎月の画像取得を引き続き行うと共に、画像処理ソフトImageJを用いて、これまでに得られた画像から、根系、菌根、菌糸などを抽出し、根系の成長と消失に関するデータを取得する処理マニュアルを開発した。開発したマニュアルに基づいて作業を行うことで、枯死根、成長根の時間的ダイナミクスの抽出が可能となった。 (2-1)細根の成長、枯死、分解が土壌呼吸の発生量にもたらす影響:(1-1)で作成したイングロースコアの上に土壌呼吸測定用カラーを設置し、根の成長に伴う土壌呼吸の変化を求めた。その結果、根が侵入可能なメッシュサイズの大きいコアと根系リターバッグを詰めたコアの2種類で、土壌呼吸が次第に増加する様子が確認された。 (2-2)全自動土壌呼吸測定システムを用いた土壌呼吸の変動測定:1年目に構築した全自動土壌呼吸システム用いて、琉球大学が所有するやんばる演習林において土壌呼吸の連続測定を試みた。装置は約半年に渡って順調に動くことが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はこれまでに得られたデータの解析、試作した全自動土壌呼吸システムの設置作業などを中心に、以下の項目を実施する。 (1-1)改良型イングロースコア法による細根のターンオーバーの推定:これまでに得られた細根の成長、枯死速度のデータを用いて、Osawa et al. (2012)の手法に基づき、枯死速度を考慮した生産速度の推定を行う。透根防水シートで覆ったコアから菌糸を取り出し、菌糸生産速度の推定を試みる。埋設24か月後には、全種類のコアを取り出し、細根量、粗根量、細根分解量、粗根分解量、菌糸生産量のそれぞれのデータを取得して、地下部の根系動態による炭素移動量の推定を試みる。同時に取得している温度、土壌含水率データと比較することで、これらの炭素移動の環境制御要因についても検討する。 (1-2)CCDスキャナ法による土壌中の根系動態特性の解明と土壌環境因子との関わり:毎月の画像取得を引き続き行うと共に、画像処理ソフトImageJを用いて、これまでに得られた画像から、根系、菌根、菌糸などを抽出し、根系の成長と消失に関するデータを取得する処理マニュアルを開発する。 (2-1)細根の成長、枯死、分解が土壌呼吸の発生量にもたらす影響:土壌呼吸の測定を引き続き行うと共に、これまで得られたデータを用いて、根系の成長、根系の分解、菌糸の成長、の3つの要因がそれぞれ土壌呼吸にもたらす影響を推定する (2-2)トレンチ法と全自動土壌呼吸測定システムを用いた微生物、根、菌根呼吸の変動比較:試作した全自動土壌呼吸システムを運転し、土壌呼吸の連続データの取得を試みる。温度、水分、林冠上の炭素収支などの要因の関係を解析し、土壌呼吸の制御要因と炭素収支における寄与度を推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はフィールドワークを担当する研究協力者や連携研究者の何人かが、自分で旅費を負担したため、依頼出張にかかる旅費が予想に反して安く上がった。また、フィールドでかかる現地雇用の人件費も安く上がった。一方で次年度は、予算が大幅に減少するにも関わらず、ミーティングとフィールド調査を1回ずつ現地で予定しており、旅費がかかると予想される。また画像解析には多大な時間がかかるので、専用の研究補助を雇用する予定にしており、人件費もかかると予想される。そのため、予算の一部を次年度に回すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費:土壌呼吸観測システムを運転するための消耗品や制御弁など追加のパーツを購入する必要がある。システムを現地に移設するための物品の購入も予想される。旅費:解析を行うためのミーティングを、9月と11月にマレーシアで予定している。9月には、マレーシアのクチンでシンポジウムがあり、そこで成果の一部を発表する予定である。そのための事前協議を7月にクチンで行う予定にしており、メンバーのうちの2名が参加する予定となっている。人件費・謝金:スキャナ画像の解析には時間がかかるため、研究補助員の協力が不可欠である。さらに11月には土壌呼吸連続測定システムを日本からマレーシアに移築する予定にしており、現場への機材の運搬などの作業のために雇用する作業員に対する謝金を支出する予定としている。その他:成果を国内学会の発表、論文発表する際の参加費や英文校正代金、投稿費用などを支出する予定である。
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