研究課題/領域番号 |
25304029
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩滝 光儀 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 准教授 (50423645)
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研究分担者 |
福代 康夫 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任教授 (70095511)
和田 実 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (70292860)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 赤潮 / 有害藻類 / 渦鞭毛藻 / 東南アジア / 国際研究者交流 / インドネシア / マレーシア / シンガポール |
研究実績の概要 |
2014年2月にジョホール海峡で赤潮による魚類斃死が発生し,マレーシアの研究協力者と共同で走査電顕と分子系統解析による種同定を行った。原因種が渦鞭毛藻Karlodinium australeであったことを特定して論文報告した。これは本種による初めての赤潮被害報告となる。2015年2月にも同種の赤潮が発生し,この試料をシンガポールの研究協力者より入手して種同定を進めているが,K. australeに加え,海産woloszynskia類も赤潮形成と漁業被害に関わったことが分かってきた。 2014年10月にはインドネシアの研究協力者とランプン湾の合同調査を行った。Cochlodiniumの赤潮が2012年以降に確認されていることから,培養株作成と種同定,そして分子系統解析による種内系統群の特定を進めた。観察の結果,ジャカルタ湾ではC. fulvescens,ランプン湾ではC. polykrikoidesの出現が確認された。C. polykrikoidesの培養株を作成して種内個体群を特定した。 渦鞭毛藻Amphidiniumの同定と分布調査を進めている。作成した約50株の培養株を用いて細胞鱗片の有無を透過電顕観察により確認した。現在までに鱗片が確認されているA. cupulatisquamaとA. massartiiの他,系統的位置の異なる1株からも未報の形状の細胞鱗片を確認した。 関連プロジェクトIOC/WESTPAC-HABでは4月にWESTPAC国際科学シンポジウムの中で有害藻類セッションとワークショップを開催し,東南アジアにおける有害藻類研究者ネットワークを強化した。この中で日本とマレーシアの大学院生の発表が優秀若手研究者賞を,研究分担者が特別研究者賞を受賞した。若手研究者の育成を目的として,現地と日本の大学院生もしくは若手研究者が全ての調査に参加している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4月にWESTPAC国際科学シンポジウムの中で開催した有害藻類セッションとワークショップには本研究で対象海域としている東南アジア5ヶ国(インドネシア,マレーシア,フィリピン,タイ,ベトナム)の研究者を招聘し,情報交換と研究に関する議論を通して有害藻類研究者ネットワークを強化している。 昨年度末には,研究者ネットワークを通してジョホール海峡における有害赤潮による魚類大量斃死の情報を入手したが,今年度は生物試料を入手し,走査電顕観察と分子系統解析により原因種を同定し,現地研究者との共同研究として論文発表した。その後も現地研究者より同海域における赤潮再発が確認され,赤潮試料を入手できているため,今後は同種の定着評価と赤潮発生メカニズム解明を目指して進めることができる。 昨年度はインドネシア・ランプン湾における有害赤潮原因渦鞭毛藻Cochlodiniumの出現と漁業被害の情報を入手したが,今年度7月に行った最初の合同調査で出現を確認し,培養株を作成することができたのは計画以上の成果である。これにより初出現報告を投稿しただけでなく,培養株を用いて種内系統群を分子同定し,移入元を推定することができた。2012年以降の出現状況から同海域におけるC. polykrikoidesの定着は明らかであることから,休眠細胞の有無等,本種内系統群の定着様式についても評価を進めることができる。 底生性渦鞭毛藻Amphidiniumの培養株も現在までに東南アジアの広い海域から入手することができ,細胞形態と系統関係に基づく同定と分布調査を進めることができている。特に昨年度は透過電子顕微鏡観察により新たな細胞鱗片構造を発見できたことが想定以上の成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
東南アジアにおける有害藻類研究者ネットワークを活用することで有害藻類の出現情報を研究試料の入手を継続する。現地調査はインドネシア,シンガポール,マレーシアで計画している。インドネシアのランプン湾に出現している有害赤潮原因種Cochlodinium polykrikoidesについては今後もさらに調査を重ね,種内系統群の報告を行うだけでなく,休眠細胞を含めた同種の定着状況の評価を進める。ジョホール海峡に出現したKarlodinium australe赤潮については,マレーシアとシンガポール両国を訪問することで出現と被害に関する詳細な情報を入手する。昨年度は同種に加え海産woloszynskia類の出現が確認され,さらに漁業被害への関連も疑われたことから,本種の培養株作成と電子顕微鏡観察と分子系統解析による種同定を進める予定である。底生性渦鞭毛藻Amphidiniumについては,未報の形状の細胞鱗片が発見された株の新種記載報告を行う。 東南アジアを中心とした有害藻類研究者ネットワークの強化については,来年度は関連プロジェクトであるACORE-COMSEAの国際セミナーを利用してグループ会議を開催することで情報交換を進める。研究成果はこのセミナーの他,中国で開催されるEASTHABで発表する予定である。
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