研究課題
抗原性の異なる3つのハンタウイルスの核蛋白質を混合して抗原とするELISAと、複数の核蛋白質を用いたイムノクロマト法を開発した。これらの抗体検出法を流行地のげっ歯類や翼手類の血清に応用し、抗ハンタウイルス抗体の検出を試みた。また、ダニ媒介性脳炎ウイルスのMとE蛋白質を免疫グロブリンIgGとの融合蛋白質(TBEV-ME-IgG)として哺乳類細胞中で発現させ、細胞上清中から多量のTBEV-ME-IgGを回収して精製した。本タンパク質を用いたELISAにより、流行地のげっ歯類における抗ダニ媒介性脳炎ウイルス抗体の検出が可能であった。モンゴル国内でダニを捕集し、ダニの乳剤を培養細胞に接種してダニ媒介性脳炎ウイルス株を9株分離した。分離されたウイルス株のEタンパク質遺伝子について塩基配列を決定したところ、いずれもシベリア型のダニ媒介性脳炎ウイルスであった。分離された9株のうち2株をマウスに接種したところ、2株のウイルスは明らかに異なった病原性を示した。両株のウイルス遺伝子全長について塩基配列を決定したところ、両株では13のアミノ酸しか異なっていなかった。ロシアのサマラ州においてげっ歯類の疫学調査を実施し、捕獲されたげっ歯類のハンタウイルス感染について検討したところ、ヨーロッパヤチネズミがPuumala型のハンタウイルスに感染していることが判明した。本研究によってハンタウイルス感染症とダニ媒介性脳炎の流行地において両感染症の流行様式の一端が明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、近年国内外で問題となっているウイルス性人獣共通感染症のうち、侵入または流行の危険性があり、重篤化しやすく致死率も高いハンタウイルス感染症とダニ媒介性脳炎などの感染症について簡便な診断法を開発することを第一の目的としている。平成25年度はハンタウイルス感染症とダニ媒介性脳炎の抗体検出法を開発することに成功し、平成26年度には新たに開発された抗体検出法をげっ歯類の検査に応用した。本研究のもう一つの目的は、人獣共通感染症の流行地域において疫学調査を実施して、これらの感染症の流行状況に関する情報を得ることである。すでに平成25年度に、モンゴルの共同研究者を北海道大学に招聘してダニ媒介性脳炎の診断法の習得に協力したばかりでなく、平成26年度にはモンゴルのダニの調査を行って、ダニの乳剤からダニ媒介性脳炎ウイルスを分離し、その遺伝子性状と病原性の解析を行った。また、ロシアのサマラ州で捕獲されたげっ歯類についてハンタウイルスの感染調査を実施し、ヨーロッパヤチネズミがPuumalaウイルスを保有していることが判明した。本研究により、モンゴルやロシアのサマラ州におけるウイルス性人獣共通感染症の流行状況に関する貴重な情報が得られた。この情報は国外の流行国からわが国への人獣共通感染症の進入に対して有効な対策を立案する上で大変有用な知見となる。
<モンゴルにおける疫学調査>モンゴル農業大学獣医学研究所と共同でモンゴル国内での野生げっ歯類やダニの調査を実施する予定である。本調査において、モンゴルにおけるハンタウイルスやダニ媒介性脳炎ウイルスの分布域や病原巣動物、媒介節足動物が明らかになる。また、流行中のウイルスの性状についても解析を行う。<ロシアにおける疫学調査>ハンタウイルス感染症、ダニ媒介性脳炎、およびウエストナイル熱の流行国であるロシアにおいて疫学調査を実施し、様々な野生鳥獣に由来するこれらの感染症の病原体が自然界でどのように存続しているのか、詳細に解析する。また、患者からの検体を採取し、抗体検出や血清学的な感染ウイルス型の鑑別を行う。疫学調査で得られた検体のうち、ウイルスの存在が疑われるものについては、ウイルス分離を行い、遺伝子解析や実験動物への感染実験を行って、分離ウイルスの様々な性状を解析する。
平成26年度は、予定していた海外疫学調査のための出張が共同研究者の都合で中止となった。したがって旅費の支出が予想を下回った。また、海外疫学調査で得られるはずであった検体がなかったため、それらの検体の検査に用いる試薬類の消耗品費が予想以下の支出となった。
平成26年度は、モンゴルで疫学調査を実施することが予定されており、多くの検体が得られることが期待される。したがって、より多くの旅費ならびに消耗品費の支出が予想される。
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