研究課題
基盤研究(B)
翼手目(コウモリ)は多様性とその分布、移動域の広さ、巨大なコロニー形成などの特徴を持つ特異な生物である。エボラウイルス、マールブルグウイルス、ヘンドラウイルスなどの高病原性病原体の自然宿主と疑われており、病原体レゼルボアとして高いリスクを持つ。しかしながら、翼手目の生物学的特徴に基づいた体系的な調査は行われていない。本研究は日本に近く、多種の翼手目が生息しているフィリピンにおいて翼手目の保有病原体の疫学研究等を実施することにより、翼手目の人獣共通感染症のレゼルボアとしての総合的評価を行うことを目的としている。今年度は8月13日から同月19日までの約1週間、日本から7名の研究者がフィリピンに赴き、地元フィリピン大の研究者等6名と一緒にミンダナオ諸島群で翼手目の捕獲調査を実施した。その結果、オオコウモリ4種88匹、ココウモリ1種3匹計91匹(#1-#91)を捕獲できた。口腔スワブを用いてインフルエンザウイルス抗原検出キットで検査を実施した結果、7検体(ジュフロアルーセットオオコウモリ4検体(#1, #17, #53, #59), ヨアケオオコウモリ3検体(#24, #67, #70))が陽性を呈し、この7検体を対象にMDCK細胞を用いたインフルエンザウイルス分離が試みられた。CPEが検出された検体の感染細胞上清を対象に各種ウイルスに対する特異的プライマーを用いた遺伝子検出、次世代シーケンサーを用いた解析及び透過型電子顕微鏡を用いた解析を行った。その結果、サマル島Sion Bat Caveで捕獲されたヨアケオオコウモリ由来の咽頭スワブからウイルスが検出され、レオウイルス科オルソレオウイルス属のネルソンベイレオウイルスグループに属する新規レオウイルスであった。本ウイルスの疫学はまだ不明な点が多く、今後の調査の端緒となる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
今年度はミンダナオ諸島群で翼手目の捕獲調査を行い、91匹のコウモリを捕獲できた。また、1匹のヨアケオオコウモリからネルソンベイレオウイルスに近縁の新規ウイルスを分離することに成功した。
本研究によりフィリピンに生息する翼手目にはネルソンベイレオウイルスグループに属する新規レオウイルスが感染していることが明らかなった。ネルソンベイレオウイルスグループはオーストラリア、インドネシア、マレーシア、中国で過去にコウモリから分離されており、マレーシア、中国では急性呼吸器症状を呈した患者から原因ウイルスとして分離されている。また、日本国内においてもインドネシアからの帰国者で急性呼吸器症状が報告されている。今回分離されたウイルスのヒトへの病原性は不明であるが、フィリピンのコウモリで分離・同定されたことは意義深い。インドネシアやマレーシアだけではなく、フィリピンにおいても本ウイルスが今まで原因不明であった急性呼吸器症状の原因のひとつであった可能性が示唆され、今後検証が必要であると考えられる。また、本ウイルスのコウモリにおける感染実態の解明、ヒトへの感染の可能性、病原性の解明は翼手目由来感染症に対するリスクアセスメントの一環として今後更なる調査解析を行っていく必要があると考えられる。
平成25年度はフィリピンでの翼手目捕獲調査に参加予定だった2名の研究者が急に都合がつかなくなったため、その旅費等が余った。また、研究費の節約に努めたため、予定していたよりも経費が少なくて済んだ。平成26年度も8月頃にフィリピンでの翼手目捕獲調査を予定している。研究室の学生も同行させる予定なので、旅費は予定通り処理できると考えている。
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