研究課題/領域番号 |
25304048
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
沢田 裕一 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (90259391)
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研究分担者 |
西田 隆義 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (60208189)
塚田 森生 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (20273352)
高倉 耕一 大阪市立環境科学研究所, その他部局等, 研究員 (50332440)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミバエ / 寄主選択 / 配偶干渉 / 個体群動態 / インドネシア / ミカンコミバエ種群 / Bactrocera属 |
研究概要 |
(1)B.carambolae(Bc)、B.papayae(Bp)、B.cucurbitae(Bcu)、B.albistrigata(Ba)の4種は、インドネシアを中心に同所的に生息し、特にBcとBpは同胞種である。これらの種間の生殖隔離の機構を、求愛行動の時間帯、オスの求愛のための翅振動音のスペクトラム解析、卵成熟の日齢による変化から調査した。Baの求愛交尾が日中行われるのに対し、他の3種では夕刻に集中し、時間的な生殖隔離が機能していると推測された。体内での卵成熟について、Bcでは9日齢から成熟卵が増え始めたが、Bpでは15日齢になっても成熟卵が現れず、Bcでは、産卵前期間がBpより短いと推測された。 (2)同胞種であるBcとBpについて、配偶干渉に関する予備的な実験を行った。30x30x60cmの各ケージに、BcとBpの未交尾雌雄をペア数の比率を変えて飼育・交尾させ、交尾成功ペアを隔離して産卵させ、果実から脱出する蛹数をカウントした。各ケージでの交尾成功ペア数と脱出した蛹数を比較分析した結果、両種間で相互の配偶干渉の可能性が指摘されるとともに、配偶干渉競争において、BcはBpより優勢であることが示唆された。Bcは果皮の厚いマンゴーをうまく利用できず、スターフルーツなど他の果実を利用する。他方、干渉競争で劣勢であるBpは、Bcが利用できないマンゴーを利用しているのかもしれない。 (3)LAMP法を応用したBcとBpの識別法の開発:成虫期に加え、幼虫期や蛹期においても、両種の識別を可能にするため、高価な機材を必要とせず現地での利用が可能なLAMP(Loop Madiated Isothermal Amplification)法によるプライマー設計を行った。また現地での使用を想定し、虫体を突いて体液を付着させた爪楊枝を直接LAMP反応液に浸漬するテンプレートDNA採取方法(爪楊枝法)についても、その有効性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成25年度は、ミバエ各種の生態特性の概要を把握するため野外調査に重点を置くとともに、室内での配偶行動の観察や飼育実験、DNA分析などを行った。野外調査は、西ジャワ州カラワン県・スバン県の村落生態系に調査地を設置し、ミバエ類の種構成と個体数の季節変動を調査した。また各調査地で、マンゴー、グアバ、スターフルーツなどミバエ類の主要寄主植物の被害果実を採集し、ミバエ類各種の寄主選択の実態を把握した。 室内での飼育実験については、現地で入手可能な成虫の餌料や、効率的に卵を採集するための採卵器の開発など基本的な実験手法の開発を行い、配偶行動、特にオスの求愛のための翅振動音について詳細に分析し、種間で比較した。DNA分析については、LAMPプライマーを設計し、爪楊枝を直接LAMP反応液に浸漬するテンプレートDNA採取法についても、その有効性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた野外調査結果に基づいて、ミバエ類の種構成と個体数の季節変動様式を把握するとともに、それらに関与する要因について調査、研究を進める。特に地上徘徊性捕食者や幼虫期の捕食寄生者など生物的要因の作用について調査・研究を進める。 平成25年度に開発した基本的な実験手法を基礎にして、成虫飼育による配偶行動の観察や、採卵器によって採集したミバエ類各種の卵を主要寄主植物の果実に接種して、幼虫期の発育パフォーマンスを調べる。このような実験室内での発育パフォーマンスと野外で観察される寄主植物との関係について検討し、ミバエ類の寄主選択における生態学的要因の重要性について考察する。もし可能ならば、ミバエ類各種のメス成虫による産卵選択実験を開始する。 平成25年度に開発されたLAMPマーカーを用いた識別法により、幼虫・蛹段階であっても迅速・簡便に2種のミバエの判別が可能になった。今後は、本識別法を現地でのモニタリング作業への導入をめざし、プロトコルの最適化を行った上で試験的な運用を行い、蛹期以前の発育段階における迅速識別法として整備する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
B.carambolae(Bc)とB.papayae(Bp)の繁殖生態について実験したところ、Bcのメス体内で成熟卵が形成される時期はBpより早いこと、すなわち、Bcの繁殖(産卵)前期間はBpより短いことが明らかになった。 BcとBpの繁殖干渉実験は、両種の同一日齢の成虫を使う計画で実験材料の準備を進めてきた。しかし、Bcの繁殖前期間はBpより短いことが明らかになったため、実験で使う成虫の日齢を再検討し、新たな実験材料の準備を始めた。そのため、2013年12月~2014年3月に実施予定であった繁殖干渉実験は、2014年2月~3月に予備実験をするにとどまった。このように、繁殖干渉実験の遅れと、規模の縮小が、次年度使用額が生じた理由である。、 BcとBpは世界的な大害虫であるにもかかわらず、外部形態が極めて類似し、また生態特性もほとんど差がないといわれてきた。しかし今回、繁殖前期間という重要な形質において、両種に顕著な相違のあることが示唆された。したがって、平成26年度では、繁殖干渉実験とともに、それぞれの種の繁殖特性の解明に向けて重点的に取り組む予定である。
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