研究課題/領域番号 |
25304048
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
沢田 裕一 滋賀県立大学, 環境科学部, 客員教授 (90259391)
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研究分担者 |
塚田 森生 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (20273352)
高倉 耕一 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (50332440)
西田 隆義 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (60208189)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミバエ / 個体群動態 / 寄主選択 / インドネシア / ミカンコミバエ種群 / Bactrocera属 |
研究実績の概要 |
1. Bactrocera carambolae(Bc)とB. papaya(Bp)の季節消長、特に植物資源量との関連について:西ジャワ州チカンペックバルー地区において、雄誘引剤(メチルオイゲノール)を用いたトラップ調査、および主要寄主植物(マンゴーなど4種)のフェノロジーと結実量について、年間を通し詳細な野外調査を実施した。トラップによる捕獲個体数は、両種共に、12月、1月にピークに達し、この地域の最優占寄主植物であるマンゴーの結実期に一致した。果実利用調査では、マンゴーではBpが、スターフルーツではBcが優占する傾向が認められたが、12月、1月では、スターフルーツでもBpが優占するようになった。以上の結果は、Bc、Bpによる果実利用は、寄主に対する選好性だけでなく、両種の競争的な種間関係が影響していることを示唆している。 2. 幼虫の発育パフォーマンスについて:この地域の主要寄主植物であるマンゴー(M)、スターフルーツ(S)、グアバ(G)、ローズアップル(R)の各果実片に、BcまたはBpの卵を1個ずつ移植し、その後の幼虫の発育状況を調べた。結果はBcとBp共に、SではRより有意に生存率が高く、MとSではRより有意に幼虫期間が短く、羽化した成虫サイズ(翅脈長)は、寄主による有意な差は認められなかった。BcとBpの発育パフォーマンスは各寄主植物で似た傾向を示し、野外で観察された2種間での産卵選好性の相違は、発育パフォーマンスからは説明できなかった。BcはBpに比べ産卵管が短いため、果皮の厚いMには産卵しにくいなど、他の要因が野外での2種の産卵選好性の違いに関係している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(26年度)は5年計画の2年目であり、野外での生態調査と室内での飼育実験を相互に関連づけて本格的に研究を推進することができた。 野外調査については、西ジャワ州カラワン県、スバン県、プルワカルタ県などの数ヶ所で調査を行ってきた。本年度は、拠点研究施設(病害虫予察センター)に近いチカンペックバルー地区で集中的な調査を行い、特に寄主植物の資源量やフェノロジーについて重点的に調査を行った。今後、研究期間終了までの数年間に亘り、この地域での個体数の年次変動について調査を継続する予定である。 実験室での研究については、現地で入手可能な成虫餌料や卵採集のための採卵器など基本的な実験手法を開発するとともに、配偶行動の観察や卵巣解剖による卵成熟の経時的変化を調査してきた。本年度は、特に各寄主植物に対する幼虫の発育パフォーマンスを詳細に把握することにより、ミバエ類の寄主選択研究について大きな前進をみた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 2種のミバエ、BcとBpの個体数のピークは、地域の最優占寄主植物であるマンゴーの結実期と一致し、個体数変動における植物資源量の重要性が指摘された。同時に、マンゴーの結実期である雨季には、アリなど徘徊性捕食者の作用が弱まることも指摘された。今後、年数回の結実期を持つスターフルーツが優占する西ジャワ州西部(ボゴール県など)での調査も含め、両種の個体数変動機構について、更に研究を進める。 2. 寄主利用調査の結果、マンゴーではBpが、スターフルーツではBcが優占する傾向が認められた。しかし、幼虫の発育パフォーマンス実験では、マンゴー、スターフルーツ共に、両種の幼虫にとって好適な餌資源であることが示された。実際、マンゴーの結実期では、スターフルーツにおいてもBpが優占することが明らかになった。また、BcとBpの配偶干渉に関する予備的実験の結果、両種間で相互の配偶干渉の可能性が指摘されるとともに、配偶干渉競争において、BcはBpより優勢であることが示唆された。すなわち、Bcは果皮の厚いマンゴーをうまく利用できず、スターフルーツなど他の果実を利用する。他方、干渉競争で劣勢なBpは、Bcが利用困難なマンゴーを主に利用しているのかもしれない。今後、配偶干渉や資源競争など両種の種間関係や生態特性を含めて、寄主選択のメカニズムの解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
インドネシアでの昆虫標本持ち出し規制の強化により、標本の入手が3ヶ月程遅れており、そのため、ミバエ類のDNA分析のための機器、試薬類の購入を、一部控えているため。
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次年度使用額の使用計画 |
これまで、Genbankに登録されている2種ミバエ(BcとBp)のDNA配列情報を参照し、安定的に2種を判別できる変異を探索し、多くの成果をあげてきた。今後は、現地から取り寄せたミバエ標本を用いて、LAMP(等温増幅)法による、現地でも実用可能な簡易で安価なDNA検出技術を開発する。
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