研究課題/領域番号 |
25304049
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
本道 栄一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30271745)
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研究分担者 |
前田 健 山口大学, 獣医学部, 教授 (90284273)
藤波 初木 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 助教 (60402559)
大松 勉 東京農工大学, 農学部, 講師 (60455392)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 新興感染症 / ウイルス / オオコウモリ / 環境 / 気象 |
研究概要 |
ヒトに致死的な病原性を示す新興・再興ウイルス感染症が世界を震撼させている。コウモリがこれら感染症に大きく関与していることが次第に明らかとなり、例えば中東呼吸器症候群(MERS)の自然宿主もコウモリであることが昨年明らかになった。本研究では、コウモリの中でも特に広域行動解析が容易なオオコウモリに焦点をあて、その行動解析、気象との関連性を見出すことを主題目のひとつとして研究を行った。25年度は、特にインドネシアのオオコウモリについて衛星を用いたテレメトリー調査および同オオコウモリ群から日本脳炎、モルビリウイルス、SFTSおよびE型肝炎ウイルスの感染履歴について、血清学的調査を行った。 オオコウモリは(Pteropus vampyrus)、インドネシア共和国ボゴール市郊外で11頭を捕獲した。捕獲したオオコウモリはボゴール農業大学へ搬送し、10頭を血清学的調査に供し、1頭を衛星を用いた追跡調査に用いた。ELISA法による血清学的調査の結果、60 %のオオコウモリで日本脳炎ウイルス陽性だったが、その他のウイルスにはすべて陰性だった。 オオコウモリの追跡調査のため、米国Microwave Telemetry社のPTTを使用した。11月中旬に衛星による追跡を開始し、現在も飛行を続けている。11月中旬から2月にかけては、ボゴール市近郊から離れ、ジャワ島南岸に新しい生息地を作った。一方、2月におきたジャワ島東部における火山噴火と時期を同じくして、オオコウモリの行動に変化が起きた。ジャワ島南岸に定着したように見えたオオコウモリだが、2月以降、南岸と数十キロ離れた内陸部を行き来する行動があらわれた。現在、気象パラメータとの照合を行っている。また、スラウェシ島のマーケットで購入した凍結食用オオコウモリサンプルより次世代シーケンシングを行ったところ、新規のヘルペスウイルス遺伝子断片が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テレメトリー調査が非常に順調に進展しており、オオコウモリの夜間の行動のみならず昼間の行動についてもデータが蓄積できている。本研究は東南アジア・オセアニア地区全域を対象としているので、さらに他国での調査が必要である。一方、インドネシアにおいて行っている行動解析は、現在でもオオコウモリが生存し飛行中なので、計画としてはほぼ完ぺきに進んでいる。従ってインドネシアでの追加実験は必要なく、他国での新規テレメトリー調査を開始出来る段階にある。気象との関連についても、偶然インドネシアでは火山噴火という劇的な環境変化があったので、興味深い結果が得られている。また、インドネシアでの血清学的調査および次世代シーケンサを用いたウイルス解析も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の結果および過去の我々の調査の結果、オオコウモリは東南アジア全域で日本脳炎ウイルスの自然宿主となっている可能性が示された。タイ王国および今回の結果から半数以上のオオコウモリが感染履歴を持っていた。特に研究を深く進める目的で、他の病原性ウイルスの検出等を、フィールドワークの確立しつつある、インドネシア共和国ボゴール農業大学を中心に行う。気象変化に関しては、現在飛行中のオオコウモリの位置が、火山噴火の影響を受けるジャワ島西部にいるため、気象変化とオオコウモリの行動の関連性を見出すフィールドとして優れているため、本年度もこの解析を続行する。一方、本研究の採集目的は、東南アジア・オセアニア地区全域でのオオコウモリの交通と気象との関係を見出すことであるから、本年度にはさらにフィリピン共和国ミンダナオ島でのオオコウモリの行動解析も行う。 スペースの関係で、研究実績の概要では述べていないが、25年度にはタイ王国におけるオオコウモリの生息地の調査、昼間の生息地内での行動調査も行っている。これまで、タイのオオコウモリの生息地は、寺院に限られるとしてきたが、全く異なる他の東南アジア・オセアニア諸国における生息地と同様な位置、すなわちヒトの生活圏から離れたところにも形成することが明らかとなった。衛星による追跡調査は夜間の大規模行動であり、昼間のオオコウモリ群内での行動は見ることが出来ない。昼間の詳細な行動解析は寺院で行うのが最適なので、今後も継続して行い、特定のオオコウモリ群内へウイルスが入り込んだ時にどのようにして群内に広がるのか、他の動物への伝播はどのようにして起こるのかについて詳細な検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定では、Argos発信機を装着したオオコウモリは他の動物による捕食や発信機の不具合により、長期飛行が出来ない場合を想定して予算を計上していたが、予想に反してインドネシアのオオコウモリは順調に飛行を続けているため、追加の実験が必要なくなった。 次年度に繰り越した使用額分は、フィリピンでのオオコウモリの行動調査に利用する。フィリピンではPteropus vampyrusの捕獲が難しく、若干小型のPteropus hypomelanusを用いなければならず、多めの発信機が必要であるのがその理由である。
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