研究課題
本年度は、仏教国でないインドネシアを中心にオオコウモリの昼間行動調査を行うことを目的とし、調査地の選定作業を中心に行うとともに、国内では、網羅的ウイルス解析のためのMultiplex PCRプライマー設計を東京農工大の共同研究者とともに行った。仏教国では、寺における一切の殺生が禁じられていることから、オオコウモリは駆け込み寺として利用しており、昼の生息地を寺として、夜は採餌に出かけるために寺には全くいなくなる。一方、フィリピンやインドネシアのようなキリスト教国、イスラム教国ではそのような傾向はないが、感染源動物としてのオオコウモリの行動は仏教国以外でも正確に知っておく必要がある。、このような目的で、まずはインドネシアに入ったところ、思った以上に群れが人間に対して敏感で、地上からの生態観察は非常に難しいことが明らかとなった。そこでフィリピンを削って、インドネシアの森に集中することにした。まず、2015年は、史上最大級のエルニーニョが起きていて、乾季が持続したためにオオコウモリの集団が人里周辺に移動してきていた。このことは、乾季によって森の果実が減っており、人里近くの果樹園の果実が必要となっている現状があると思われた。人間に対して敏感なのは、オオコウモリのハンターがインドネシアには少なからず存在し(東南アジア諸国ではどこでもほぼ同じ)、それが一番大きな理由だと思われた。ドローンによる遠隔からの観察を試みたが、すでに人の気配でオオコウモリは激減しており観察は難しかった。日本国内では、東京農工大のグループと共同で、今後の網羅的ウイルス解析のためのMultiplex PCRプライマーの設計を設計するとともに、山口大学の研究者とはオオコウモリの糞からのウイルス分離を試みた。後者に関しては、本報告書執筆時点で新たなウイルスは分離していない。
2: おおむね順調に進展している
仏教国でのオオコウモリの行動については、これまでに我々の研究グループが記載してきたものの仏教国以外でのオオコウモリの行動についての詳細な記述は、英語でも見当たらない。従って、予想に反した上述のような行動が明らかになってきてもそれは貴重な情報である。如何に科学的に評価するかについて難しいところがあるとしても、現時点では地道に情報を集積する必要がある。ヒトとの関係を含めたオオコウモリの行動に一定の法則が見つかるまで、オオコウモリ生息地周辺での聞き取り調査やできるだけ多くの生息地へ入り、オオコウモリの行動を科学的に評価する手段を考案しなければならない。上の報告には記載しなかったが、タイ・Bangkla市でブタを飼育しており、オオコウモリの集団がその庭に訪れる家庭内に小規模の研究スペースをいただいた。これにより、現場での材料採集、遠心機での血清分離、冷凍庫での材料保存等が可能となった。そこで、これら材料を氷結してカセサート大へ輸送し、後の研究に用いるルートを構築した。今回日本で開発したMultiplex PCR用プライマーは、これら材料におけるウイルス核酸断片の網羅的な収集と保存に非常に大きな武器となると考えている。
2016年度は、フィリピンでのオオコウモリの行動について、これまでの観察から、Pteropus属オオコウモリの集団が最も大きいルソン島スービック市にて、仏教国ではない国のオオコウモリの行動解析を行う。まずは現場でオオコウモリ集団内でのオオコウモリの行動を解析するため、本年度はまずは発信器を用いた方法は使用しない。また、仏教国以外国でのオオコウモリ集団の推移についての知見を集積する。オオコウモリ集団間の動きすなわち発信器をつけてのオオコウモリのトラッキングを最後にするという工夫を行う。インドネシアでこれを行うときには注意が必要で、ヒトの気配で集団が森の奥へ移動してしまうため(1日程度で同じ場所へ戻ってくる)、テント等に隠れてそこから双眼鏡で観察するなどの工夫を行う。なお、タイに関しては、我々の小さな研究室が観察およびオオコウモリ、ブタ間の病原体感染の現場となることから、ブタの継続的な血清採集を目指す。
フィリピン共和国ルソン島スービック市でのオオコウモリの生態行動調査を予定していたが、事前準備の不足によりこれを行わなかったため。
本道、本道の所属する大学院生によるフィリピン共和国ルソン島スービック市でのオオコウモリの生態行動調査を実施する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 5件)
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