研究課題/領域番号 |
25305012
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
五ノ井 透 千葉大学, 真菌医学研究センター, 教授 (30134365)
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研究分担者 |
松澤 哲宏 長崎県立大学, 看護栄養学部, 講師 (40598702)
矢口 貴志 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (60361440)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 真菌 / 真菌感染症 / カビ毒 / アスペルギルス / 糸状菌 / 病原放線菌 / 2次代謝産物 / ケニア |
研究実績の概要 |
ヒト真菌症は、カビ(アスペルギルス属菌)や酵母(カンジダ属菌、クリプトコッカス属菌)などによって引き起こされる。また、アクチノミセス属菌やノカルジア属菌などの嫌気性、好気性の細菌も放線菌症・ノカルジア症などを引き起こす。これらの菌は共に、エイズ患者、がん患者、臓器移植者など主として免疫力が低下した患者や、老人や子供において大きな脅威であり、死因や失明等の原因になっている。一方、ヒト病原性の放線菌やカビは、創薬やその他の産業などに応用できる新規の生理活性物質の探索源としても、重要であることが明らかになりつつある。 千葉大学真菌医学研究センターでは、文科省のNBRPその他の支援を受けて、病原真菌・放線菌を収集し、研究や治療目的でそれらの菌種について、分子生物学的、形態学、生理学的な手法を組み合わせて菌の性質を解析してきた。 さらに、真菌症や放線菌症の問題を抱えるいくつもの発展途上国を中心に、共同研究提案を行い、今回の研究を発展させる基盤を築いてきた。 一方、これらのヒト病原性放線菌の産生する2次代謝産物など生理活性物質にも注目し、新規の抗菌剤、抗癌剤、農薬等の開発のための分子基盤として、化学など他分野の研究者と協力して、化合物の探索を行い、構造を決定し、生合成経路の解明、ゲノムの解読などに力を注いできた。 本研究は、上記の研究基盤に立ち、アフリカのナイロビ大学およびケニア中央研究所の真菌研究者や中国・貴州省の真菌・放線菌研究者などと提携して、真菌・放線菌微生物・遺伝子資源の拡充を図ると共に、近年、技術的発展が著しいゲノム・シークエンス技術を用いて、菌の感染や病原性発現機構の解明、抗菌剤開発、新規の2次代謝産物探索の分子生物学的基盤を築くことを目的とする。菌の情報は、現地にフィードバックして医療の発展に役立てる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビクトリア湖周辺特にキスム、ホマ・ベイを拠点に医療活動を続ける米国人医師およびケニア中央研究所の真菌研究者と共同で、ケニアのAIDS患者に感染し、直接の死因となるクリプトコッカス属真菌について、環境菌も含めてMulti-Locus Sequence Typing (MLST)解析を用いた調査を行なった。驚いたことに距離的に離れ、行き来の無い村の患者や環境からMLSTで同型の菌が多数見つかった。現在、特定の型のクリプトコッカス属菌が、特に強い病原性を示すのか、あるいは他の要因があるのか研究を進めている。 コーン、小麦、その他の主要作物に寄生してトリコテセン類,ゼアラレノン,フモニシンなどのカビ毒を産生し、またヒト日和見感染症原因菌ともなるフザリウム属菌をケニアから日本の植物防疫所等の許可を得て輸入し、形態学やMLST法を用いた分子系統学により解析し、さらにカビ毒の産生を計測した。現在、論文として報告すべく結果を解析中である。 同じくケニアからヒト日和見感染症原因菌となり、また植物に寄生して農業被害を出すとともにカビ毒を産生する黒麹菌を50株あまり輸入し分子系統学的、形態学的、生理学的解析を進めている。解析の途中であるが、今までに報告の無い新種のカビが見つかってきている。 さらに、日本国内のアスペルギルス症患者対象に、菌球型、侵襲性など病態に菌の遺伝子が関与しているかゲノム配列を解析し、菌ゲノムと病態の関連性について報告した。また、最近症例報告の増加が著しい薬剤耐性アスペルギルス属によるヒト感染症について、同菌で薬剤耐性を引き起こす原因遺伝子等について解析し新たな治療薬開発の道筋を提案した。 ヒト病原放線菌が産生する高い抗結核菌活性をもつ分子ノカルジチオシンの生合成遺伝子クラスターをゲノム解読と分子生物学的手法で解明した。この成果は今後の新規の抗結核薬の開発に繋がると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
文部科学省の本科学研究費の28年度継続は、一部基金分を残すのみであるが、本基金および関連研究分野の資金を呼び込み、上記の成果を発展させるべくさらに努力を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際的テロや政情不安、エボラ出血熱など感染症の流行により一部の国際共同研究を終了させることが出来なかった。次年度に使用額を引き継いで、共同研究を完遂したい。
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次年度使用額の使用計画 |
消音品および人件費に使用予定。
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