本研究は、胎児期の栄養障害と将来の生活習慣病発症が関連するという DOHaD 説に基づき、中国内モンゴル自治区内においてモンゴル族を中心に、日本人および遺伝的特徴の異なる複数 の中国少数民族を対象に出生体重と若年成人の生活習慣病、とくに高血圧発症に注目して調査を行い、中国農村部で増加傾向が著しい生活習慣病の発症を妊娠前より予防するために有効な支援方法を明らかにすること、出生体重が成人期の高血圧を中心とした生活習慣病にどのような影響を及ぼすかについて検証することを目的とした。その結果、モンゴル族の健康若年成人群は、低出生体重群で明らかな血圧、白血球、血小板の増加、圧反射受容器の感受性低下が認められ、血小板の増加を示した世界初の報告となった。また、同世代の日本人及び中国漢族は、血圧の上昇傾向、あるいは圧反射受容器の感受性が低下する傾向が認められたが、モンゴル族ほど顕著な結果ではなく、民族差が認められた。モンゴル族に高血圧発症リスクが高い原因として、現地における栄養調査により、日本人に比べ脂肪と塩分摂取が高い一方、野菜の摂取が極めて少なく、生後の環境とくに栄養要因の影響も認められる結果を得た。高血圧リスクについては、中国漢族は、日本人とモンゴル族の中間に位置しており、この結果は生後の環境、とくに母親の胎内での栄養環境に加えて、生後早い時期からから成人期に至るまでの環境の影響を示した可能性がある。また、日本人は低出生の高血圧発症リスクは今回の若年成人ではモンゴル族に比べてはるかに低いものの、男性が女性よりも圧反射受容器の感受性低下が顕著に認められ、今後性差の影響も評価する必要性を示した。
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