南アジアの島国・スリランカでは1990年代より、セイロン島中東部、中北部および周辺地域において、慢性腎不全が急増してきており、社会問題になっている。スリランカの研究者において、ヒ素曝露が腎障害の要因ではないかと指摘がされていた。また民族的な遺伝素因も関与するが、農業従事、高血圧を始めとした生活習慣病が潜在的なリスクとなると考えられた。 我々は現地の研究機関と共同してコホート調査を実施した。平成28年度はコホートの追跡による新規発症、病期進行の観察を平成27年に続き、行った。また既往疾患の治療歴、診療実態の調査臨床情報のデータセットをもとに血圧管理などが良好に行われているかを評価した。そしてコホートにおける生活習慣病スクリーニング健常対照者を対象に継続してスクリーニングを行った。バルカン半島腎症の原因とされる腎毒性を有する植物で生薬として用いられることがあるウマノスズクサの関与について検討するため、尿中アリストロキア酸の分析方法を検討した。また症例対照それぞれの検体で曝露評価を行った。結果として、検出できる量のアリストロキア酸は見出されず、対象集団におけるウマノスズクサの利用そのものがまれであることが示された。病理組織の検討も行い、電子顕微鏡観察を行った。腎組織の電子顕微鏡観察は、CKDuの病因における重金属毒性を支持する証拠はなかった。CKDu患者における重金属毒性の欠如を報告する以前のモニタリング結果を支持した。 国際的な研究チームとの研究を計画し、既存試料を用いて、リスク要因の検索についてのプロトコールを作成してきた。
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