研究課題
膜性腎症(MN:membranous nephropathy)は、成人の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める難治性疾患である。2009 年にBeck らはphospholipase A2 受容体(PLA2R)が一次性MN における責任抗原であると報告した。その後、韓国、中国を含む各国からPLA2R抗体の陽性率が60~80%であることが報告された。本研究は、①PLA2R 抗体陽性率を比較することで、日本及びアジア各国における膜性腎症の特徴を明らかにする、②PLA2R抗体価と臨床所見、病理所見および遺伝子多型との関連を明らかにする、③PLA2R抗体測定ELISAシステムの有用性を検証し世界への普及を図る、そして④膜性腎症研究を通じて国際貢献することを目的として進めている。本年度は、本邦の一次性MN症例におけるPLA2R陽性率を明らかにした。一次性MN症例全体では53%、ネフローゼ症候群に限定すると61%であり、本邦ではアジアの他の国と比べても陽性率が低いことが明らかとなった(Akiyama et al. Clin Exp Nephrol. 2014)。さらに、日本の一次性MN症例97例を用いてHLAとPLA2Rに関するSNPの検討を行った。その結果、rs4664308 (PLA2R1 intron 1)とMN発症との間に有意な相関が確認された。さらに、本年度は、各国のMNに関する診療実態と疾患登録の整備状況につき調査した。韓国ソウル大学Bunadng HospitalのChae教授はCKDコホートを有している。このうち、MN症例を抜き出し、JNSCSとの比較研究を進めることで同意が得られた。中国の中山大學の余教授と連携し、中国におけるネフローゼ症候群疾患コホート作成の準備を進めている。また、インドネシアのダルマイザー教授とは、MN症例についてPLA2R抗体を測定するための協議を行った。今後、アジア太平洋地域におけるMN診療の標準化を通して国際貢献を進めていく予定である。
3: やや遅れている
アジア各国の状況を調査しているが、腎生検による疾患登録システムが完成している国は少ない。韓国、中国、台湾、インドを除く国では、腎生検そのもの実施・診断体制が不完全である。上記4カ国に関しても、登録システムが完成している全国登録がなされている国はない。韓国は、大学ごとに登録している。ソウル大学グループの膜性腎症症例はBunadng HospitalのChae教授との共同研究によって解析が可能となる見込みである。現在、Chae教授にはデータクリーニングをお願いしている。台湾は現在、全国CKD登録システムを構築中であり、今後共同研究の進展が期待される。しかし、現時点では、登録されたMN患者情報を得るまでに至っていない。インドネシアは、MNの診断体制が不完全である。腎生検では、光学顕微鏡所見のみで診断しており、免疫染色が行われていない病院も多く存在する。そうした病院に対しては、検体提供していただき、PLA2R抗体を測定するシステムを構築することも有用であると考える。また、凍結切片での蛍光染色の技術提供も現在検討中である。
①PLA2R抗体価と臨床所見(尿蛋白量、治療反応性等)、病理所見(IgG4染色の有無等)および遺伝子多型との関連を明らかにする日本腎臓学会および厚生労働省の班研究(難治性腎疾患に関する調査研究)と協力し、本邦のMN患者150例を目標に新規に登録する。血清検体を用いて、PLA2R抗体の有無および抗体価を測定する。血液からDNAを抽出し、HLA-DQA1およびPLA2Rに関するSNPの解析を進める。さらに臨床情報、治療反応性、病理所見を収集し、PLA2R抗体との関連を解析する。②各国のPLA2R抗体陽性率を比較することで、日本及びアジア各国における膜性腎症の特徴を明らかにする韓国、中国のPLA2R陽性率に関する情報を収集する。台湾とは共同研究として、PLA2R抗体の測定を行う。その結果を比較する。インドネシアとは、腎生検における免疫染色の技術指導を含む診療支援からはじめ、MNのレジストリー構築を共同で進める。③最近、THSD7A(トロンボスポンジン)も一次性MNの原因抗原となることが報告された。今後は、PLA2R抗体に加え、THSD7抗体を測定していく予定である。
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