研究課題
本研究では、紀伊半島とグアム島のALS/PDC の発症原因として、両地域に共通する環境要因と遺伝要因を明らかにするために、両地域の50年以上におよぶ研究成果および試料を元に、全ゲノム解析を含めた最新の研究手法を用いて検討する。28年度の成果としては、①患者レジストリ:現在、約250名の紀伊半島多発地区患者を登録し、さらに現在闘病中の患者10数例について追跡中である。②Dr. Carlos Ramel 訪問:2016年11月にグアムで唯一の neurologist で、ALS/PDC の診療にあたっている Dr. Carlos Ramel を訪問し、情報の共有と意見交換を行った。ここ10年ほどALSの新規患者は認められないこと、PDC 患者は引き続き発症者が存在すること、高齢発症の認知症症例が増加していること、などが判明した。③紀伊ALS/PDC 療養の手引きの発行:患者および介護者を対象とした療養の手引きが完成し、発行・公開した。④グアム島と紀伊半島のALS/PDC に共通する疫学像および臨床像の変化ならびに生活環境の変化に関する両地域の過去の研究資料の収集を行った。⑤遺伝子解析:紀伊患者由来遺伝子バンクおよび地域コントロールを用いてゲノムワイド関連解析を行い、疾患特異的なSNPの抽出を試みた。5染色体において、ゲノムワイドにsuggestiveとされる、p<10-5となるSNPを認めた。⑥紀伊ALS/PDC のホームページ:随時、更新し研究成果の公表を行った。⑦論文作成:BMAA、小脳病理、OPTN、NO、高次機能に関する論文の作成または投稿中である。⑧診療マニュアル:医療従事者を対象とした診療マニュアルを作成中で、2017年度中の完成を予定している。⑨Immigrant study: 他地域から多発地区に移住後発症した症例の臨床、病理像を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
環境要因 ①患者データベースの構築:現時点で、約250例の登録を完了しており、データベースとしての条件は満たしている。②患者レジストリーの構築:現時点で、10数例の登録を完了しており、順調に経緯している。③ 紀伊とグアムの実態調査:グアム ALS/PDC を研究、診療している複数のグループと疫学、臨床像、生活環境、労働環境、食餌内容の変化等について国際共同研究を遂行中である。神経毒である BMAA の解析結果について論文投稿中である。④紀伊ALS/PDC の療養の手引き作成:疾患の理解や日々の介護や生活、療養といった身近な問題についての手引きの作製を完成、発行した。⑤紀伊ALS/PDC のホームページ:研究の進捗状況について、適宜情報公開を行った。⑥診療マニュアル:医療従事者を対象とした診療マニュアルを作成中で、2017年度中の完成を予定している。⑦Immigrant study: 他地域から多発地区に移住後発症した症例の臨床、病理像を明らかにした。遺伝要因 これまでに紀伊患者由来遺伝子バンクおよび地域コントロールを用いて、①全ゲノム解析:剖検による診断確定6例の脳組織を用いた全ゲノム解析において共通する遺伝子変異は認めなかった。②ゲノムワイド関連解析 (GWAS) : 疾患特異的なSNPの抽出を試みた。5つの染色体において、ゲノムワイドにsuggestiveとされる、p<10-5となるSNPを認めた。③候補遺伝子解析:紀伊ALS/PDC の一部の患者にC9orf72遺伝子変異を同定した。一方、グアムでは、C9orf72遺伝子変異は認められない。
環境要因 紀伊ALS/PDCにおいて構築した患者データベースおよび患者レジストリーのデータ解析をすすめ、自然史を明らかにする。また、引き続きグアム島を訪問し、ALS/PDCの現地での現在の実態と過去100年間の疫学、臨床像、生活環境、労働環境、食餌内容等の変化を改めて再調査し、紀伊との比較、検討を進める。発症状況や自然歴、神経放射線データ、予後、死因といった臨床情報をプロスペクティブに集積し、今後予定される新規治療薬の臨床研究や医師主導治験の参加登録資料として活用する。医療者向けの診療マニュアルの完成を目指す。酸化およびニトロ化ストレスが発症に及ぼす影響を検討し、論文化する。紀伊ALS/PDC の病理像を明らかにし病理診断基準を作成する。もう一方の多発地であるパプアのフィールド調査との連携を進める。遺伝要因 紀伊ALS/PDCに関する我々の遺伝子バンクとペンシルベニア大学にあるグアムALS/PDCの遺伝子バンクについて、相互利用を確実なものにする。紀伊症例を用いての GWAS 解析結果で得られた知見をもとに5種類のSNPの役割を明らかにする。両地域の遺伝バンク試料の次世代シークエンサーを用いて両地域の患者に共通する発症遺伝子の探索を実施し、原因遺伝子同定の手がかりを得る。環境因が遺伝情報に与えた影響についてepigenetics の観点から患者検体におけるDNAメチル化について検討し、Genotoxicity theory を検証する。論文化 Immigrant study、酸化・ニトロ化ストレス、OPTN病理、神経病理のまとめ,高次機能結果、について論文化を進める。
計画より旅費や謝金を低額に抑える事が出来たため。
平成29年度は最終年度のため、海外での学会発表とそれに伴うポスター作成料、海外調査、論文投稿や英文校正に使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
『認知症の最新医療』25号特集「遺伝が関与する認知症-主な認知症と遺伝子との関係について」
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Brain Pathology
Journal of Alzheimer's Disease & Parkinsonism
巻: 7 ページ: 311-314
10.4172/2161-0460.100311
Clinical Neuroscience
巻: 34 ページ: 10-11
http://kii-als-pdc-project.com