研究実績の概要 |
申請者らは、口腔がんの発がんマーカー、あるいは前がん病変のマーカーを同定するために、口腔粘膜上皮の培養細胞を用い、betel quid で誘発される発がんのメカニズムの解明を行った。arecoline はbetel quid の中の前発がん物質の一つである。arecoline はbetel quid中のareca nutに含まれ、アルカロイドとして多幸感、鎮痛効果などを生み出すことが知られている。しかしながら、同じbetel quidの成分であるslaked lime(消石灰)と反応することで、ニトロソ化を受け、発がん物質となる。我々の研究室では最近、口腔粘膜上皮の培養細胞に対して薬剤による長期的刺激を与えることによってepigeneticな変化を引き起こす培養系を確立した(Takai R., et al., J. Periodontal Res.51: 508-14, 2016) 。この口腔粘膜上皮の培養細胞にarecolineを作用させ、DNA microarrayによるmRNAの網羅的に解析し、そのデータからbioinformatics解析を行ったところ、MMP-9の発現が上昇していた(第60回日本口腔外科学会にて公表、Uehara O., et al., Oncology letter: 2016, in press)。 Betel quid chewingを原因とする口腔癌が多発するスリ・ランカにおいて、口腔前癌病変を有する者を対象に、無作為割付を行った上で化学予防的手法による介入試験(Chemopreventive intervention study)を行っている。betel quid に含まれるslaked lime (消石灰)は強アルカリであり、口腔粘膜下に慢性炎症を誘発し、それが母地となって発癌物質が吸収される。従ってその炎症を抑制することにより発癌を抑制するというのが本研究の主旨であり、そのためにスパイスの一種で抗酸化剤のcurcuminを用いて化学予防を行っている。さらに口腔粘膜上皮の培養細胞を用いたMMP-9の発現解析によるcurcuminの効果の裏付けを得、さらに頬粘膜擦過組織を用いて介入の効果を経年的にモニターしている。現在、その経過観察中である。
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