本年度は主に以下の研究を行った.
(i) 本研究課題における以前の成果において導入した1ラウンド量子対話型証明系に関する計算量クラスの持つ性質について,さらに理解を深めた.とくに,同計算量クラスの自然な完全問題として,量子エントロピーに関する問題を新たに発見することができた.また,量子NPにおける検証者の能力を制限した場合における量子NPの検証能力について研究した.とくに,検証者が古典で模倣可能な量子回路しか持たないような状況を考え,そのもとでも量子NPの検証能力は保たれることを明らかにした.
(ii) 多項式時間量子計算を特徴付ける計算量クラスBQPの最良の上界として知られる古典計算量クラスAWPPについて,その量子計算的特徴付けを与えることに成功した.この成果は,事後選択と呼ばれる仮想的な操作を認めた多項式時間量子計算によって古典計算量クラスを特徴付けるものであり,直感的な理解が容易でない計算量クラスに対して量子計算の枠組みを使った操作論的な解釈を与えるものである.
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