研究課題/領域番号 |
25330028
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
川村 正樹 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (60314796)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 情報ハイディング、 / 電子透かし / スペクトル拡散 / 誤り訂正符号 / 電子透かしコンテスト |
研究実績の概要 |
画像電子透かしでは、幾何変換や切り出しを伴う加工が加えられると、画素の同期が取れなくなり、透かし情報の抽出が難しくなる画素同期の問題がある。同期を取るためには、マーカーや同期符号を用いる方法が考えられる。この場合、同期は容易になるが、マーカーを埋め込む分、画像の劣化を引き起こす可能性がある。一方、スペクトル拡散型電子透かしでは、拡散符号自身を同期符号として用いることができるので、画像の劣化を抑えることができると期待される。本研究では、スペクトル拡散型電子透かしを元に、情報ハイディング及びその評価基準(IHC)委員会が定める評価基準を満す手法を提案した。画像の切り出しを伴う攻撃であっても、従来法に比べ、ビット誤り率と画質の点にからも良い性能が得られた。この成果は、電子情報通信学会英文誌Dに採録された。 次に、マーカーを用いる方法であっても、誤り訂正能力が高ければ、総符号長を短くすることもできる。そこで、複数の誤り訂正符号を組み合わせる連接符号を導入した。誤り訂正符号には大別すると、一定のビット数を完全に訂正できるものと、一定の確率で訂正できるものがある。これらを組み合わせることによって、より訂正能力を高めることができた。 次に、Wet Paper符号による埋め込み方法を検討した。この方法では、原画像とステゴ画像の差分が小さくなるように埋め込むことが可能である。圧縮センシングの手法を用いて、より差分が小さくなる埋め込みができることが分かった。しかしながら、この手法では、画像の狭い領域に、透かしを集中して埋め込むことになるため、画質の点からは埋め込み法の改善が必要であることが分かった。 我々の手法をIHC委員会が行う電子透かしコンテストに応募した結果、高画質部門において優勝し、高耐性部門でも2位となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子透かしの評価基準であるIHC評価基準では、JPEG圧縮と切り出しの攻撃が想定されている。この基準を満す手法を前提として取り組んできた。画像の切り出し攻撃を含むため、同期処理が必要となる。マーカーを必要としないスペクトル拡散型電子透かしの手法については、IHC評価基準を満し、論文として成果をまとめることができた。一方、マーカーを用いる方法においても、符号効率を高めることで有効な場合がある。誤り訂正符号を用いた手法については、国際会議IWIHCで研究発表を行っている。また、本手法は電子透かしコンテストにおいても優秀な成績を修めることができた。さらに、誤り訂正符号を連接することにより、より高画質で、誤り耐性のある電子透かし法に改善を行っている。計算機シミュレーションによる性能評価は順調に進んでいる。一方、理論的な性能評価はまだ未完成である。提案手法のモデル化を行い、評価していく必要がある。 Wet Paper符号による埋め込み方法では、圧縮センシグの手法を用いて、スパースな解を得ることができた。しかしながら、画質の主観的な評価では、ごま塩状にノイズが現れるなど改善が必要であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
連接符号を用いた電子透かし手法は、符号長を短くできるので、埋め込み量を減らすことができ、より高画質なステゴ画像を生成することができる可能性がある。様々な誤り訂正符号の組合せを検討し、電子透かしコンテストを通して、手法の有効性を示していきたい。 Wet Paper符号による埋め込み方法では、圧縮センシングの手法を用いることによって、スパースな解を得ることができる。これは原画像とステゴ画像の差分がより少なくなる埋め込みができることを示している。しかしながら、単にスパースさで最適化を行うと、画像の狭い領域に、透かし情報を強く埋め込むこととなるので、透かし情報がごま塩状のノイズとして現れてしまうことが分かった。この場合でも、PSNRで画質を評価しても、十分よい画質となっている。しかし、主観的評価を行えば、ノイズが認識できるので、よい方法とは言えなくなる。客観的な画質の評価指標を見直す必要がある。その上で、スパースさだけではなく、画質の点からも性能のよい手法を開発する必要がある。ウェーブレット変換など画像の埋め込み空間について再検討を行う。 次の電子透かしコンテストでは、画像の拡大縮小や回転の幾何攻撃が加えられる。従来のような画素の同期以上に座標系が変化する可能性が高い。従って、離散コサイン変換やウェーブレット変換では対応できない可能性がある。視覚フィルターによる特徴抽出や、画像の事前確率の学習を採り入れ、幾何攻撃に強い透かし法へ改良していく必要がある。画像の事前確率の学習はステガナリシスとしての利用も検討する。
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