最終年度である平成28年度は,平成27年度に引き続き分散未知の場合の多変量正規分布の平均ベクトルの推定問題に注力した.分散既知の設定と同様に,3次元以上の場合にスタイン現象が生じることが知られている.自然な推定量を改良するミニマクス推定量のクラスが,ジェームス・スタイン推定量を始めとして,よく知られている.一方,(特にミニマクス推定量であり,かつ)一般化ベイズ推定量の許容性に関する結果は知られていない.これは分散既知の場合の一般化ベイズ推定量の許容性について,完全な結果が得られていることとは対照的と言える.より現実的な設定である分散未知の設定における,一般化ベイズ推定量が許容的であるための十分条件に興味が持たれてきた.この問題に対して,考え得る一つのアプローチとして,スタインのリスクの不偏推定量に基づく方法がある.これにより,少なくとも許容的であるための必要条件が得られる.我々はその必要条件を満たすことをquasi-admissibilityと定義して,quasi-admissibleとなる一般化ベイズ推定量に関する様々な性質を得た.平成25年度から継続してきた研究テーマであるが, 平成28年度に不完全であったquasi-admissibilityとquasi-inadmissibilityの境界部分をようやく解明した.論文としてまとめてArxivに投稿し,また同時に査読付き国際学術誌にも投稿した. なお,この研究はアメリカ・Rutgers大学のStrawderman教授との共同研究であり,平成28年度においては2度先方を訪問して共同研究を遂行した.
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