研究課題/領域番号 |
25330042
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鶴田 陽和 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (10112666)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 血中濃度曲線下面積 / 薬物動態解析 / テーラメード治療 / ブスルファン / 患者内誤差 / モンテカルロシミュレーション / ブートストラップ法 |
研究実績の概要 |
ブスルファンの血中濃度曲線下面積(AUC)推定の新しいアルゴリズムの開発:前回の研究(Tsuruta H et. Methods Inf Med. 2012;51:383-94.)当時、ブスルファンの投与方式は経口投与がメインであったため、前回の研究では反復経口投与の場合のAUCの正確な推定方法の開発と、正確度ならびに精度の評価を行った。しかし、近年投与方法が経口投与から点滴静注に変わったことから、点滴静注の場合に対するできるだけ正確なAUCの推定アルゴリズム(LSS, Limited Sampling Scheme)を新たに開発することが今回の研究の最初の目標である。 AUCの推定方式は、(i) 線形重回帰、(ii) 台形則+指数関数近似などいくつかあるが、昨年度は、私たちが開発した薬物濃度曲線データベース探索法を利用したAUCの推定方式を導いた。また、この推定方法を使って求めたAUCの推定誤差を評価方法も導いた(一種のブートストラップ法を使う)。 今年度は昨年度導いた方式を検証するために、点滴静注の場合の模擬症例データベースの作成を行った。そのために、私たちが行った経口投与の場合の臨床試験のデータから、まず日本人の薬物動態パラメータ(具体的には消失速度定数、吸収速度定数、分布容量)の分布を求めた。また、薬物動態パラメータの分布とは別に薬物濃度(対数)の患者内誤差の分布を求めた。次に、点滴静注の代表的なパラメータ(投与時間、投与速度、投与間の間隔)の値の組み合わせに対して、模擬症例を日本人の薬物動態パラメータの分布に基づいてランダムに生成し、薬物血中濃度の変化の理論値を計算した。最後に、理論的な濃度変化値に患者内誤差の分布に基づいて、ランダムに誤差を付与し最終的な模擬症例の濃度変化を求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブスルファンに代表される抗がん剤や免疫抑制剤の中には治療域が極めて狭く、投与量が不足すれば治療効果が望めず、逆に投与量が治療域を超えると重篤な副作用を引き起こすものが少なくない。そのような薬剤の場合、血中濃度曲線下面積(AUC)が全身暴露の良い指標となることが多いため、最適なAUCを実現できるように投与量を調整することが理想である。しかし、AUCを推定するためには、治療前または治療開始時に個々の患者の薬物動態を正確に推定することが必要だが、そのために多数回の採血をすることは臨床の場では患者と医療スタッフの負担が大き過ぎるという問題がある。そこで、少数回の採血データからAUCをできるだけ正確に推定する方法がいくつか提案されており、一般にLSS(Limited Sampling Scheme)と呼ばれている。 今回の研究の大きな目的は、近年一般的になったブスルファンの点滴静注に対して、治療効果を担保できるAUCの推定方式(LSS)を求めることにあるが、開発と比較を予定している方式の中で最も有望と考えている薬物濃度曲線データベース探索法に基づく推定式の開発を昨年度、終えることができた。さらに「その推定式を使って求めたAUC」の推定誤差を、薬物動態モデルのパラメータ(具体的には消失速度定数と分布容積)と対数血中濃度の患者内誤差の分布に基づいて評価する方式を導くことにも成功した。 次に、点滴静注の場合に対する上記の新しい推定方式が理論通り機能するかを検証する必要があるが、「研究実績の概要」で述べた方法により、模擬症例セットの生成を今年度は終えることができたので、新方式の評価と必要な測定回数を求めるための準備が整った段階にあり、研究はほぼ予定通り進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最初の年度に、検討を予定しているAUCの推定方式の中でも最も期待をかけている「薬物濃度曲線データベース探索法」に基づく推定式の開発を終えた。また、導いた推定方式(LSS)の性能を評価するための方法も導いた。具体的には新しいLSSの正確度と精度は、薬物動態パラメータの母集団分布と患者内誤差の分布が分かっていれば、1種のブートストラップ法により計算が可能であり、経口投与の場合に対してはすでに評価を行った経験があるが、点滴静注の場合のAUCの推定式についてこの手法で評価が行えることを確認した。 今年度は、新しく導いたLSSの評価を行うために必要な患者のデータを過去の臨床研究の結果得られた日本人患者の薬物動態パラメータの分布に基づいて生成した。なお、これまでに導いた計算方法とその結果については、2015年5月開催のヨーロッパ医療情報学会(MIE2015)で発表予定である。 最終的な課題は、どのように測定点を設定すれば必要な治療精度を確保できるかと、治療の途中で必要な精度が確保できない可能性が出た場合に投与方針をどのように変更するかである。ブスルファンの場合、治療の目標域は最適暴露量の±12.5%前後とされている。また、実際の治療時のAUCの目標値からのずれは、LSSを使った体内動態パラメータ推定時の誤差と患者内誤差の双方が足し合わされたものと考えることができる。そこで、模擬患者群にLSSを適用するシミュレーションを繰り返し行い、真のAUCとLSSによって推定されたAUCの比較を行うことにより、AUCの推定誤差の分布を求め、それに基づき最小限必要な測定回数と最適な測定時間を求めるとともに(測定回数を増やせば患者の負担は増えるが推定誤差を小さくすることができる)、治療途中で実際のAUCを目標域の外になる可能性を知る方法を導く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
累積の残額は約8万円とわずかで、必要な解析ソフトを購入するために不足なため次年度に回すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
残額では購入できなかった薬物動態の解析ソフトウェアの購入に充てる予定である。
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