1.前年度は、臨床試験の結果から得られた薬物動態パラメータの分布に基づいて、ブスルファン点滴静注時の代表的な制御変数(投与時間、投与速度、投与間の間隔)の値の組み合わせに対する模擬症例のデータベースの作成を行った。今年度は、その結果をもとに最終目的である血中濃度曲線下面積推定法の精度の評価と動的投与法の検討を行った。その結果、以下のようなことを明らかにすることができた: (1) 3種類の推定法((i) 線形重回帰、(ii) 台形則+指数関数近似、(iii)私たちが開発した薬物濃度曲線データベース探索法)の中では、(iii)が一番精度がよかった;(2) 点滴終了時に予定通り血中濃度の測定を行い、かつ実際の投与時間と推定式が想定している投与時間が一致している場合は、どの推定方式でも推定誤差は許容範囲内であった;(3) 推定誤差が患者内誤差より小さくなることはどの推定方法でもなかった;(4) 実際の投与時間が予定より早く終了するなど、推定式が想定している投与時間と異なったときは推定精度は悪化した;(5) 血中濃度の測定回数は3回で十分であった。 2.以上の結果から、以下の臨床的に重要な知見が得られた((1)と(2)については、研究開始時の予想とはやや異なる結論になった): (1) ブスルファンの血中濃度曲線下面積の正確な推定のためには、何よりも実際の投与時間に合った推定式を用いることが重要である;(2) 血中濃度の測定回数は3回で十分だが、第1回目は静注終了時(血中濃度は最大値を取る)が望ましい;(3) どの推定方式でも、投与の繰り返しによる誤差の蓄積には十分に気をつける必要があり、初回投与時だけでなく、途中で(例えば12時間後など)一度血中濃度を確認し、必要に応じて動的に投与量を調節する必要がある。 3.今回の研究で得られた成果を整理して、第26回ヨーロッパ医療情報学会で報告した。
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