研究課題/領域番号 |
25330048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
服部 聡 久留米大学, バイオ統計センター, 教授 (50425154)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 傾向スコア / 二重頑健性 / 交絡要因 / 層別解析 / クラスタリング |
研究概要 |
無作為化の行われない観察研究においては、交絡要因の影響を適切に調整することが、介入効果の推定において重要となる。反応変数に対する回帰モデルの当てはめや、傾向スコアによる方法が広く用いられている。これらの方法の妥当性は、それぞれ、反応変数および割り付けに対する回帰モデルを適切に特定することに基づいており、その誤特定は介入効果の推定にバイアスを生じえる。二重頑健推定量は、誤特定のリスクを軽減するために両者を組み合わせた推定量で、いずれかが適切に特定されれば交絡要因の影響を排除できることから、より頑健な推定法である。 本研究では、モデリングの不確実性をより軽減する目的で、複数の傾向スコアのモデルを許容する推定法を提案した。二重頑健推定量は、傾向スコアの重み付き推定法と反応変数への回帰モデルを組み合わせた方法であるが、さらに、傾向スコアによる層別解析を組み合わせた、層別二重頑健推定量を提案した。この推定量は、反応変数への回帰モデルあるいは2つの傾向スコアのモデルのいずれかが正しく特定されると介入効果をバイアスなく推定できる、いわば三重頑健性というべき性質を保持している。一致性、漸近正規性が示され、シミュレーション実験により、実際の観察研究で現れる程度の被験者数のデータに対して、通常の二重頑健推定量よりも頑健であることが確認された。この結果は学術雑誌に公表した。 また、傾向スコアの層別解析において、複数個のモデルを許容する、多重傾向スコアによる層別推定法を提案し、その性質をシミュレーション実験により検討した。最近、Han and Wang(2012)による複数のモデルを許容する推定量が提案されたが、推定法は複雑である。提案法は極めて単純であり、既存のソフトウェアの簡単な組み合わせで実施できる利点を有している。現在は学術雑誌への投稿準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
層別二重頑健推定量は、層別解析に基づいていることから、一致性、漸近正規性を示すことが挑戦的な課題と考えていたが、適当な条件のもとで、経験過程理論の応用により解決することができた。ただし、その条件が応用上は近似的にしか成立せず、数%のバイアスが除去しきれない場合があることが、シミュレーション実験により確認された。現在は、この問題の解決に対する着想をえることができており、順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
傾向スコアによる交絡要因の調整法としては、重み付き推定、層別解析などがある。現在の因果推論の発展のほとんどは重み付き推定に基づいているということができる。しかしながら、層別解析は単純であり、直感的にわかりやすいという長所を有している。傾向スコアをモデル化する際にはロジスティック回帰モデル、あるいは、一般化線形モデルが用いられることが多いが、層別解析の場合には、リンク関数が誤って特定されていても頑健であるという長所を有する。最近の研究であまり重要視されていない層別解析を積極的に活用していることが、本研究の特徴の一つということができる。 層別解析の欠点としては、一致性、漸近正規性などの理論的性質の解明が困難であり、傾向スコアを正しく特定しても、層別の際に丸めることによって、数%のバイアスが除去しきれない、いわゆる残差交絡の問題が挙げられる。当初の研究計画では想定していなかったが、この問題に対処する方法への着想を得ており、この解決を目指す。 また、当初の計画から想定していた、二種類の無視可能性条件下での推測法については、具体的な推定法の構成には至っていないが、いくつかの着想があり、その可能性を引き続き検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
講演謝金を3名に支出する予定であったが、実績は1名であった。また、文献複写費用が当初の予定よりも少なかったため。 文献複写費用ならびに投稿時の英文校正費用として利用する。
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