研究課題/領域番号 |
25330098
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大宮 学 北海道大学, 情報基盤センター, 教授 (30160625)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 移動通信 / 電波伝搬 / 屋内伝搬 / チャネルモデリング / 無線LAN / MIMO-OFDM / 計算機シミュレーション / 電磁界解析 |
研究実績の概要 |
本研究は,高速・広帯域ワイヤレスネットワークの構築を支援するための屋内伝搬特性推定及び回線設計に有効な手法を提案する.平成26年度は,一般的なオフィス環境を想定した電波伝搬特性推定及び評価のため,数値モデルの改良とそれを利用した計算機シミュレーションを行った.オフィス環境として,本学情報基盤センター北館を対象とした.オフィスビルでは,外壁や床・天井などのコンクリート構造内部に鉄筋や鉄骨が含まれている.屋内伝搬特性推定においては,これら金属構造要素の影響は大きい.そこで,建築図面等で鉄筋構造を調査し,それらを数値モデルとして考慮した.大規模電磁界シミュレーション結果に基づくポインティングベクトルの可視表示による伝搬チャネル推定及び評価から,MIMO-OFDM通信で重要なマルチパス伝搬路を高精度に求めることができることを明らかにした.これにより,伝搬遅延時間特性及び電波到来角度特性を高精度に推定するために有効なデータ取得法を確立した.併せて,複数フロアを対象とした数値モデルを開発した.そこでは,階下から階上への伝搬チャネル推定を試み,計算機シミュレーション結果と実験結果の比較検討を行った. さらに,計算機シミュレーションで生成される大規模データを効率よく保存・利用するために汎用的なデータ形式HDF5を大規模電磁界解析システムに組み込み,データ圧縮機能によるファイル容量の低減と計算機プラットフォームに依存しないデータ取り扱いを可能にした. このほか,無線LANアクセスポイントの最適設置位置決定を支援するための進化型計算手法としてパラメータフリー遺伝的アルゴリズム(PfGA)及びマイクロ遺伝的アルゴリズム(MGA)について,計算時間短縮を目的とした並列化手法を提案し,並列処理性能の観点からMGAが適していることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究においては,大規模電磁界解析アルゴリズムに基づく計算機シミュレーションソフトウエアを開発し,その計算精度,処理性能及び大規模分散メモリ型並列計算環境における性能を検証する.さらに,屋内伝搬推定ツール,屋外から屋内への建物侵入推定ツール及び設計ツールを提供する. 計算機シミュレーションソフトウエアの開発が完了し,2.4GHz帯及び5GHz帯無線LANシステムの屋内伝搬特性解析のための数値モデルでは空間分解能が5mmで十分であることを前年度明らかにしたことから,本年度は数値モデルの改良と伝搬チャネルモデルの検討に集中できた.コンクリート構造内部の鉄筋及び鉄骨構造物を含めて数値モデル化することで,高精度な屋内伝搬チャネルモデルの推定が可能になった.この成果は本研究において実証されたことであり,この成果により大規模電磁界解析システムとシミュレーション結果の有効性を示した.同時に,レイトレース法で課題となっている解析対象の規模と精度に関する制約を解決した. さらに,一般的なオフィスビルでの伝搬チャネルモデルの計算機シミュレーションに基づく検討結果から,新たに「天井裏を伝搬するチャネル」や「階段を介して階下に伝搬するチャネル」が存在することを明らかにした.これまで考慮されていなかったり,可能性が考えられていた伝搬路をポインティングベクトルの可視化によって具体的に示した.ただし,複数フロアを考慮した伝搬チャネル推定・評価については,予備的な検討段階である. また,進化型計算手法に基づく最適設計法を大規模電磁界シミュレーションに組み込むことが可能になり,この研究成果を発展させることで無線LANアクセスポイントの設置位置決定のための参考資料を提示できるようになると考える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討結果から,一般的なオフィスビル複数フロア間での伝搬チャネル推定が興味深い検討課題であることが明らかになった.最終年度は,複数フロアを含む高精度数値モデルを完成させ,大規模電磁界解析ソフトウエアを利用した計算機シミュレーションを実施する.階下から階上への伝搬チャネルを対象とした検討から,天井を通過する伝搬チャネルがほとんどであるとの結論に至った.そこで,階下への伝搬チャネルについて検討を行う.その場合,階段などを介した伝搬チャネルが考えられることから,伝搬チャネルと建物構造との関係を明らかにできるものと期待している.ただし,受信電界強度(RSSI)に関する予備的な検討結果から,測定結果に比較して,計算機シミュレーション結果ではフロア間伝搬損失を充分に再現できていない.そこで,数値モデルにおける天井・床面コンクリート内部の鉄筋構造及びコンクリートの誘電率を見直し,両者の結果を一致させる数値モデルについて考察する. さらに,計算機シミュレーションにより得られた高精度電磁界データを利用して,マルチパス信号の遅延時間,到来角度,遅延スプレッド及び到来角度スプレッドなどの特性を定量的に評価する方法を提案する. 最後に,3年間にわたる研究期間中に実施した検討内容と得られた研究成果のまとめを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表のための旅費が,当初計画よりも安価であった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に予定している研究成果発表のための旅費として利用する。
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