本研究は,高速・広帯域ワイヤレスネットワークの構築を支援するための屋内伝搬特性推定及び回線設計に有効な手法を提案する.平成27年度は,過去2年間の研究成果を発展及び改良を目的に,オフィス環境を想定した伝搬特性及び伝搬経路推定のための数値モデルの改良と計算機シミュレーションを行った. 数値モデルの表現法として有限範囲内の周期構造を記述する手法を開発し,その設定方法を提案した.この手法を利用することで,数値モデルを従来の10分の1以下の行数で記述できる.さらに,大規模電磁界解析アプリケーションソフトウエアで,上記の数値モデル定義ファイルを読み込むための機能拡張を実施した. 昨年度の検討で,オフィス環境ではコンクリート壁および床内部の鉄筋構造の影響が無視できないことを示した.鉄筋構造の影響を検討するため,複数フロア間での伝搬特性について計算機シミュレーションを実施した.これら結果と測定結果を比較検討し,フロア間透過量はコンクリート壁面内部の鉄筋の配置や間隔に依存することを明らかにした.そこで,鉄筋間隔を100mm,150mm及び200mmに設定して計算機シミュレーションを行い,鉄筋間隔が広くなるほどフロア間透過量が減少することを明らかにした. 計算機シミュレーション結果に基づく伝搬経路推定について,無線LAN子機から親機に逆にたどる方法を試みた.検討した計算機シミュレーション法は,空間離散格子における6つの電磁界成分からポインティングベクトルを求め,その逆方向に一定の割合で移動する方法である.この手法により伝搬経路を示すことができたが,不自然な屈曲などが観測された.これは空間内に信号強度が異なる多数のマルチパス波が存在することが原因であると考えられる.したがって,経路推定では障害物が存在しない空間を電波が直進することを仮定して解析を行うべきである.
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