平成29年度はNA(Nomadic Agent)の技術的実現性の評価を目的として,携帯端末上にNAを実装し,その移動特性の評価を行った.従来はAndroidの制限により,NAの通信部分の実装が困難な部分が存在したが,WiFi-Directを用いることでこれを回避することが可能となった.それを踏まえ,WiFi-Directを用いて実際に端末間を移動するエージェントを作成し,様々な環境下で動作させることで,NAが実用上問題なく動作することを確認した.また,NA上のアプリケーションを作成するにあたって検討すべき課題点を明らかにした.検討すべき課題として一番に問題になったのは,当初の予想通りではあるのだが,WiFi通信環境である.多くのAP(Access Point)が存在するような「混雑した」環境では,WiFi-DirectでNAが移動するのに十分な安定した通信を行える距離が限られてしまうため,NAの情報提供範囲を小さくする必要性があった.一方で「空いている」環境では混雑した環境の倍程度の距離でも十分に実用的な速度で通信を行うことが可能であった.これは繁華街などで動作するアプリケーションを検討する際に今後考慮が必要である.また,従来,固定サイズで検討してきたNAの情報提供範囲を,環境依存で変更する必要があることを示しており,この点については今後検討が必要である. また,平成28年度に引き続き,シミュレータによる評価も行った.NAを用いて歩行者と車両,あるいは車両と車両が衝突するのを回避するシステムについてドライビングシミュレータによる評価実験を行った. 本研究により,NAの実現性およびアプリケーションの実現性,および実装に於いて検討・考慮すべき点が明らかになったと考えられる.今後は実環境での評価を行い,アプリケーションの開発および実用化に向けた検討が必要がある.
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