本研究の目的は,平成25年に流通を開始したメニ―コア・コプロセッサに適化した高速な暗号並列実装法を提案することである.より具体的に本研究では,公開鍵暗号の長所(鍵管理の容易性)と共通鍵暗号の長所(処理の高速性)を有するハイブリッド暗号を実装対象とし,数十あるコアを最大限に利用する多重並列性処理や,GPGPUとは異なる(汎用CPUコアとのアーキテクチャの類似性,多倍長整数演算やAES暗号処理をサポートする組込み関数,最先端微細化技術の採用といった)コプロセッサの特性を活用する.暗号の高速化の観点からアルゴリズムの改良も行なう.公開鍵暗号と共通鍵暗号に関する平成27年度の研究成果は以下の通りである. 公開鍵暗号に関して:射影座標系とExtended座標系の混合座標系でEdwards曲線を使用した楕円曲線暗号が最速になることが知られている.しかしながら混合座標系は実装を複雑にする.本研究では,混合座標系にすることなく最速楕円曲線暗号を実装できる新しい座標系を提案した.本研究の期間中に公開鍵暗号の並列実装は達成できなかったが,現在メニーコア・コプロセッサに適した実装を研究中であり,プログラミングはほぼ完了しており,実装データの収集・分析後発表を予定している. 共通鍵暗号に関して:昨年度発見したOpenMPによるAESの並列実装で生じたデッドロックに似た現象は,malloc関数の使用回避により改善できることが判明した.しかしながら,メニーコア・コプロセッサ(Xeon Phi)はAES-NI命令をサポートしていないため,AESの処理をコア数では劣るCPU(Xeon)より高速には実行できなかった.
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