文章や画像をスクロールすることにより限られた領域に表示する方法は,携帯型端末等で日常的に利用されるが,読みにくさや画面の狭さからくる不快感を感じることが多い.そこで,スクロール表示法を用いた文章の読みや画像の観察の認知特性を調べる心理実験を行い,効率的なスクロール表示方法を提案することを目的とした. 実験1では,視覚探索課題を用いて,画像操作法(表示窓を固定した状態で画像をスクロールする)と窓操作法(画像を固定した状態で表示窓を移動する)による探索効率を比較した.その結果,窓操作法の方が探索時間が短いことが明らかになった.実験2では,路線図をたどる課題を用いて,画像操作法と窓操作法による課題解決の成績を比較した.その結果,課題遂行時間は画像操作法と窓操作法で差が無いことが明らかになった.実験3では,美術品の鑑賞課題を用いて,画像操作法と窓操作法による美的評価を比較した.その結果,表示方法の好ましさについては窓操作法の方が好ましいとされたが,美術品の美しさの評価に差は見られなかった.実験4では,複数ページにわたるマンガを読むのに要する時間を比較した.その結果,窓操作法の方が読み時間が短いことが明らかになった.また,マンガを読む際のスクロールの軌跡を分析した結果,紙でマンガを読む条件と基本的には変わらない読み順序でコマを読み進めることができていることが示唆された. 以上より,読む対象,観察する対象,課題によって適切なスクロール表示方法があることが明らかになった.またスクロール操作の軌跡を分析することにより,端末等で情報収集する方略を検討できる可能性が示された.
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