研究課題
基盤研究(C)
生物の身体は能動的なセンシングシステムであり、昆虫の触角の運動やコウモリのエコロケーションのような例だけでなく、人間でも能動的な身体運動の組織化が視覚、触覚などを介した知覚に重要な役割を果たすことが知られている。こうした探索運動が特徴的に現れるのは実世界環境における習慣的技能だが,その身体運動の不変な特徴を抽出することは,複雑な環境との相互作用もあり難しかった.こうした現状に対し筆者は,実験室外の複雑な習慣的技能における探索的身体運動の特徴を時間変動構造といった身体運動の「変動の構造」に注目することで抽出することを試みた。昨年度は、適応的なふるまいを見せる人間国宝九の熟練ビーズ職人のハンマー動作の解析を行った。分析の結果、ハンマーを持つ熟練職人の手の運動の速度変化が,探索的な局面(ハンマーによる打面の微調整場面)において,長期相関と呼ばれる時間変動(時間スケールと変動量のベキ法則的関係)を示すという結果が得られた.さらに,探索が必要とされる未知の素材を使う状況では,熟練者では時間変動により強い長期相関が見られる一方,非熟練者では逆に弱まっており,習熟度が違うグループ間で変動の多重時間ダイナミクスに分岐が見られた.この結果は,熟練技能に現れる探索的な身体運動が,ひとつの時間スケールにおける制御メカニズムに支配されたものというよりは,無数の時間スケールにおける調整活動群間の組織化・入れ子化過程に由来する可能性を示唆するものであった.これらの成果の一部は、知覚心理学分野の国際雑誌Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performanceに掲載され、また同成果に対して昨年度の中山人間科学振興財団「運動の生物科学」中山賞奨励賞が授与された。
2: おおむね順調に進展している
能動的センシングシステムとしての探索的身体運動の組織化過程について、熟練技能の事例を検討する論文が知覚心理学の国際雑誌Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performanceに2014年2月に掲載され、成果の一部が既に公表されている。
能動的センシングシステムとしての探索的身体運動の組織化過程について、これまでダイナミックタッチと呼ばれる触知覚と関連する道具使用の研究を行ってきた。今後の研究の推進方策として、これまで発展させてきた身体運動のダイナミクスの解析手法を視覚的探索運動に応用し、視覚的探索行動の組織化に同様の原理が見られるかどうか、さらに確かめていく予定である。具体的には、「読む」スキルなどにおける視線運動の組織化過程について、多重時間ダイナミクス構造の側面から検討を行っていく。
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臨床歩行分析研究会誌
巻: 1 ページ: 印刷中
Frontiers in Aging Neuroscience
巻: 6:17 ページ: 6:17
10.3389/fnagi.2014.00017
Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance
巻: 40(1) ページ: 218-231
10.1037/a0033277
http://www2.kobe-u.ac.jp/~tnonaka/