研究課題/領域番号 |
25330179
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
郷田 直一 生理学研究所, 生体情報研究系, 助教 (30373195)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 視覚 / 触覚 / 質感 / fMRI |
研究概要 |
本研究は、ヒト・サルの視覚情報処理経路において視覚入力から物体表面の多様な“材質”についての情報が抽出・変換され、感性的印象の形成へと至る全体像を明らかにし、その過程をモデル化することを目的とする。本年度においては、第一に、サルのさまざまな視覚野において材質情報がどのように表現されているかを機能的MRI実験により明らかにし、その成果を論文として発表した。本実験の一部は前年度基盤研究C「ヒト・サル視覚系における表面材質情報の表現と変換過程」において行われたものである。 また、この過程で、ヒトとサルの視覚野の情報表現に違いがあり、その違いには、さまざまな材質の触覚的経験の違いが関与している可能性があることも明らかになった。触覚的経験の影響を理解することは、脳において視覚入力が材質の情報へと変換される過程、及び感性的印象が形成される過程をモデル化するための重要な手がかりとなると考えられる。そこで、本年度において、サルの視覚野の情報表現が材質を触ることによりどのように変化するのかを明らかにするための実験を行った。このため、新たに、サルが触ることが可能な様々な素材の実物体刺激とその画像刺激を用意し、それらを触る前後において、材質画像観察時の脳活動を計測した。視覚野における情報表現を触覚経験前後で比較したところ、高次の視覚野、特に後部下側頭皮質における情報表現は触覚経験後にヒト高次視覚野の情報表現とより類似するようになった。このことは、ヒト・サルの高次視覚野の情報表現は視覚入力のみでなく、触覚や記憶の入力を受けていることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては、第一に、現有の心理データ、脳活動データを用いて、材質情報処理モデルのプロトタイプを構築することを計画していた。この点について、現在までに高次画像統計量を利用するモデルで低次視覚野から高次視覚野への情報変換が説明できるとの知見を得ている。また、実物体を基とした新しい材質画像の作成とそれを用いたサルの脳活動計測を進め、一定の成果を得ることが出来た。これらの成果は高次視覚野以降の段階の材質情報処理モデルを構築する際に重要なデータとなると考えられる。また、この実験により、第二の計画である新規材質画像データベースの準備に関しても、一定程度の進展が実現できたと考えている。本年度の第三の計画として、ヒトの脳活動計測実験を開始する計画であったが、本研究に使用する計画であったMRI装置が平成25年度において所内移設のために使用できない状況となったため、実験スケジュールを一部変更し、本実験は次年度に行うこととした。これについては今後進めていくべき課題である。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている、サルの視覚野の情報表現に触覚経験が与える効果についての実験的解析を進め、高次視覚野への触覚入力や記憶の寄与についてのモデル化へと展開し、材質情報処理モデルのプロトタイプへそれらを反映させる。また、新規材質画像の作成をさらに進め、材質画像データベースの一層の大規模化を進める。さらに、平成25年度に行われたMRI装置の移設作業は現在終了しており、本年度においてMRI実験の準備を進め、ヒトの脳活動計測実験を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の実験において使用する計画であったMRI装置が平成25年度中に所内移設されることとなり、そのスケジュールの影響を受け、実験計画を一部変更してサルを用いた実験の一部を前倒しで実施し、ヒトを被験者とする実験は平成26年度に実施することとした。この変更に伴い、物品費、謝金などの一部を平成26年度中に使用することとした。 ヒト及びサルの脳活動計測実験のために必要となる物品費、及び被験者謝金として、平成26年度において使用する予定である。
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