研究実績の概要 |
本研究は、ヒト・サルの視覚情報処理経路において視覚入力から物体表面の多様な“材質”についての情報が抽出・変換され、感性的印象の形成へと至る全体像を明らかにし、その過程をモデル化することを目的とする。これまで、サルを対象とした脳活動計測実験により、腹側高次視覚野の情報表現が材質の外観だけでなく手触りを反映していること、また、物体を見て触る経験(視触覚経験)を繰り返すことによりその物体材質の手触りを知ると、腹側高次視覚野の情報表現も変化することなどを明らかにしてきた(Goda et al., J Neurosci 2014, Curr Biol 2016)。 平成28年度は、本研究課題の期間中に急速に発展、普及した深層ニューラルネットワーク(CNN)技術を利用した材質情報処理モデルの構築を進めた。これまでの実験で用いてきた材質画像を使用し、階層構造を有するCNNモデルの様々な層が抽出する特徴やその統計量が、材質特性の印象(心理データ)、ならびにヒト・サルの脳活動データと対応するかを網羅的に調べた。その結果、CNNモデルの高次畳み込み層・プーリング層の情報表現が材質特性の心理表現をよく反映することが明らかになった。さらに、これらのCNN層の情報表現は腹側高次視覚野の脳活動データとも一定の対応を示した。本CNNモデルの一層の最適化により、脳の材質情報処理モデルが実現可能であると考えられる。
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