研究課題/領域番号 |
25330186
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
川本 一彦 千葉大学, 統合情報センター, 准教授 (30345376)
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研究分担者 |
岡本 一志 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (10615032)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 確率的セルオートマトン / 人物追跡 / クリギング |
研究実績の概要 |
本年度ではおもに次の2点について研究を進めた.まず,前年度までにプロトタイプを構築していた確率的セルオートマトンに基づく人物移動モデルを用いて,その確率的遷移ルールを人物移動軌跡データから推定する方法を開発した.前年度までは,最尤推定法に基づく方法を採用していたが,対象空間全体で十分かつ密に移動軌跡データを収集することは一般に困難であるため推定精度が十分でなく,計算結果が安定しない課題があった.そこで,本年度では,ディリクレ平滑化を用いたベイズ推定法を導入し問題解決を図った.ディリクレ平滑化は,ディリクレ事前分布を用いてデータの欠損や不足を補う方法である.提案モデルでは,ディリクレ事前分布のパラメータを,フロアフィールドモデルとよばれる代表的な確率的セルオートマトンモデルを用いて,仮想的な人物移動を生成することで決定している.さらに,逐次データ同化(数値シミュレーションを観測データを用いて逐次的に更新する方法)を導入し,提案モデルを画像上の複数人物追跡に応用している.インターネット上に公開されているベンチマークセットを用いて,前年度の結果を上回る性能を示すことができた.次に,クリギングとよばれる空間的相関に基づく人物移動モデルとその移動予測への応用について研究を着手した.先に述べた手法は数値シミュレーションに基づく非線形な方法であったのに対して,クリギングは統計モデルに基づく線形な方法であり,両者のアプローチは大きく異なる.当初は,数値シミュレーションに基づくアプローチの有用性を示すために,いわばベースラインという位置づけで取り組んでいたが,同等あるいは上回る性能が得られる場合があるという結果を得ている.現在,このクリギングに基づく手法を拡張する研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では,前年度の成果を基に,データの欠損や不足といった実用上の課題の解決を図るための研究を展開し,実証実験でも性能向上を確認した.性能向上の余地はまだ残されていると思われるが,本年度までの結果から,どこを改良していけばよいか一定の目処がついている.さらに,新たな試みとして,クリギングとよばれる空間統計に基づく人物移動モデリングの研究にも着手でき,そのプロトタイプの実装と実験評価の段階まで達成できている.これらの研究展開は,当初計画していたものとほぼ同じであり,したがって,現在までの達成度の評価としてはおおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに開発・実装した手法を拡張していくことを基本方策とするが,クリギングを用いた人物移動モデルの拡張を進めていく.現在,このモデルは,空間構造が単純(障害物がほとんどない等),同時に存在する人物が10 人以下といった比較的単純な条件下での有効性しか示されていない.さらに,単純化のために確率場の定常性や等方性の仮定も要請している.より複雑で現実的な状況下に対してモデルの妥当性を検証しつつ,実証実験を通しながら検討を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果,とくに平成27年度に新たに着手した研究の最新結果を学会発表するタイミングとして,次年度開催の学会が妥当であったため,学会参加への使用額に差額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
おもに学会発表のための旅費として使用する.この学会発表によより,最新の研究成果の公表が可能になり,さらに当該分野の研究者との意見交換を実施できることになり,本研究をより精緻に達成できることが期待できる.
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