人工内耳装用者(CIR)のための音楽聴取支援装置として個人ごとの移調と速度調整の特性を学習獲得できる「懐名歌」を開発し、人工内耳装用者の会で実演し、大好評であった。より多くのCIRにWebを通じて音楽聴取を体験していただくために、「懐名歌」のWeb版を作成した。これによって装用者の内観報告を多数得ることができ、人工内耳による聴取モデルの構築及び音響シミュレーションの構築に有効に生かすことができた。CIRごとに音階識別特性を測定することによって、各CIRに最も適した条件で音楽を聴取できるように設定できるシステムを開発した。 人工内耳による音楽聴取の機構を推定するため、音響シミュレーションを開発し、我々の提案する人工内耳音階の効果を確認した。音楽聴取可能な人工内耳の開発に向けた基礎的検討として、全音階に対応する音響シミュレーション結果の音高を測定し、人工内耳のパルスレートとチャネル数を変数として明らかにした。これによって、現行の人工内耳で楽音として再現できる音階の範囲が限定されているために既存の演奏を音楽として聴取することは困難であり、音楽聴取できる人工内耳は性能を格段に向上させる必要があることが示された。 音楽聴取の特性を調査し、楽器ではピアノとギターの評価が高く、オルガンが低かった。合成音声に比べて肉声の歌唱が好まれる。先天聾の小児の音楽聴取についても、人工内耳音階への移調が有効であった。 CIRが楽しめる音楽を提供するために、一流の歌手が歌った音源を用意した。楽曲の知名度、年代別の違い、主旋律の音程の範囲、明るいリズム感、などを考慮して15曲を選択し、音楽訓練を受けた女声・男声・口笛に演奏していただき、CDにまとめた。曲楽は、刺激電極数が最大化されるように移調を行った。数名のCIRに試聴報告を求め、歌唱力のある歌手や日本語を丁寧に歌う演奏は歌詞が分かり易いと評価された。
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