本研究では、最も根源的なコミュニケーション手段である音声言語能力の発達過程を観察し、人間の知能発達過程の根幹を記述する計算機モデルの構築を狙う。感情とは心の状態であり、思考方法を切り替えるスイッチであるというMinskyの理論に基づき、感情意図ラ ベルを手がかりとした発話分析をコアメソッドとして音声言語獲得過程のモデル化を目指す。この目的に対して今年度は、対人コミュニケーション場面の実データに対する感情意図ラベリングを含んだマルチモーダル発話行動ラベリングデータベースを用いて、母子インタラクションにおける母親の介入行動に着目し子どもの音声言語発達分析を行った。
前年度までに構築した、母親が子どもに絵本を読み聞かせる母子インタラクション場面を対象とするマルチモーダル発話行動ラベリングデータベースを基盤に、絵本読み場面における母子の発話、感情、接触、視線、指差し等の行動特徴を複数の母子間で比較し、子どもの音声言語発達過程との関係を考察した。
行動ラベルは母親の介入やそれによる子どもの反応などの特徴的な場面を抽出する手掛かりとして有用であり、母親からの介入行動が多すぎると子どもの発話数が減少するなど、母子インタラクションの特徴を行動ラベルによって客観的に可視化できることを示した。さらに、子どもが母親の意図した反応を示さない場合の母親間の対応の違いなど、育児全般にも活用できる母親のコミュニケーション技法に関する知見獲得への有用性が示唆された。
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