平成27年度は、相反法に基づいたHRTFの高速計測システムを利用して、以下の成果を得た。 1.前年度に測定した水平角10°ごとの水平面における遠隔場のHRTFを用いて、高域周波数のHRTFのスペクトル的特徴を精査し、モノラル受聴時に頭部運動した場合に音像が動くのは、頭部運動に伴って水平角に対応するスペクトル的特徴が変化するためであることがわかった。耳介形状に起因するHRTFのスペクトル的特徴は正中面の音像定位のキューとして知られているが、両耳間時間差と両耳間レベル差という両耳情報が利用できないモノラル受聴時には、それは水平面の音像定位のキューとなる。 2.受聴者の正面 300 mm における 500×500 mm の平面上の7×7座標のHRTFを相反法で測定した。計測した7×7座標のHRTFを補間して61×61座標のHRTFを算出し、それらを白色雑音に畳み込むことによって、筆順に従って音像が動くひらがな移動音をバイノーラル合成した。合成バイノーラル信号を再生したひらがな移動音では、筆順どおりに文字を描く音像を知覚できたが、縦方向の移動音の移動幅がラウドスピーカを移動したときの音象移動幅に比べて小さく、「さ」や「か」などの斜や縦の画がつぶれていた。この合成バイノーラル信号を用いてひらがなの認識実験を行った結果、平均正答率は75%であった。
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