本研究は、従来の疲労測定指標では難しかった疲労推定を発話音声のみから客観的に行う疲労推定システムの開発を目指すものである。これまで、作業負荷の種類により、疲労測定指標が異なるため、客観的な測定が難しく、様々な疲労測定法が提案されているが、決定的な手段または定量的な尺度がなかった。提案法の音声分析による指標(以下、音声指標)は、従来法に比べ被験者への負担が少なく、簡便な手法である。本研究では、提案する音声指標の有効性を示すために、6種類の作業負荷時の従来の疲労測定指標と提案指標を比較検討した。 平成25年度は、精神機能測定装置 (Advanced Trail Making Test)を30分使用する実験、自転車シミュレータに30分乗車する実験を実施した。 平成26年度は、自転車シミュレータの実験の被験者を増やし、さらに60分、90分自転車シミュレータに乗車する実験を実施し、負荷時間の違いによる疲労測定指標の変化を考察した。30、60、90分の負荷前後において、いくつかの発話音声の音声指標で有意な差が得られることが認められた。一方で、生理指標の加速度脈波の一部を除き、フリッカー値や唾液アミラーゼ活性などの生理指標や他の行動反応指標などの従来の疲労測定指標では、負荷の前後で有意な結果は得られなかった。 平成27年度は、自動車シミュレータに30分乗車する実験、エアロバイクに30分乗車する実験を行い、音声指標と従来の疲労測定指標を比較検討した。自動車シミュレータでは、2つの発話音声の音声指標で有意な差が得られた。一方、エアロバイクでは、1つの発話音声の音声指標で有意な差が得られた。 これらの結果から、提案指標は、従来指標に比べ、自転車や自動車などの乗り物の運転においては有効な疲労測定指標の1つになりえると考えられる。
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